二章

■夢Ⅱ

『――――』


 綿菓子のようにやわらかくて、甘くて、儚い。

 そんな声が聞こえた。


『――――、――――』


 ……まだ聞こえる。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、同じ言葉。


 俺を呼んでる。


 俺、を、


 呼ばれる都度、腹の底から形容できない衝動が湧いて出て、溢れそうで。

 もしかしたら泣きたいのかもしれなかった。


 思わず手を伸ばした。

 掌をそのひとにかざす。

 

 その瞬間、指先が


 ブロックノイズが走る。

 

「……いやだ」


 上にも、下にも、右も、左も、矢のように、黒い流星のようにノイズが走って、壊れて、ざらりと色が分離する。ちかちかと明滅する色彩は暴力のように、頭を揺さぶった。


「いやだ、いやだ。まって、ちがう、とまれ」


 ノイズが全部を塗りつぶしていく。

 黒くて、色とりどりで、鮮やかで、褪せていて、気持ち悪い。

 吐き気がする。ぐらぐら揺れている。足元はとっくになくて、天も地もわからない。


 それでも手を伸ばしたその先で、


『――■■■■■■■■』


 ――彼女までノイズに蝕まれていく。

 ――彼女の声まで雑音に消えていく。


 崩れ落ちそうになりながらも、必死に彼女の手を掴んだ。……けれど手は空を切った。霞のように、そこには誰もいない。

 誰もいないから、堕ちていく。

 


 何処か遠くから彼女の声がする。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、同じ言葉。


 呼んでる。

 呼ばれてる。


 応えようと口を開いて、


「…………」






 ——ガァと哭く声がした。

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