第16話紋章の力

「何のこと?」

 私は震える声で無理やりシラを切った。

 こそっと私は胸元に手を差し込んだ。

「大事な人なんでしょ?」

 カマをかけたつもりだろうか?

「残念ね?私とクロエは初対面よ?何とも思ってないわ」

 龍は冷めたように鼻でため息を一つ、


「だってさ?可哀想なクロエ」

「そっか。そう簡単にはいかねぇよな?」


 その瞬間、ほんのりクロエと私の体が光り始めた。


連携魔法発動


「しまった!この光は!?」

 

 私達はここにくる前合言葉を決めていた。


ロケ地〈四合目付近青ガレ〉

 ロッククライムを終えてクリューと合流した後、テントを張っていた時のことだ。

「いいか?こっから先はどんなことがあるかはわからない。

だから、合言葉を決めておこうと思うんだ」

_合言葉、、ですか。

「お前は〈初対面〉俺は〈簡単〉だ」


 いざとなったらそれを口にして、紋章に触れろ。


 たしかクロエはそんなことを言っていた気がする。

_実はしっかり覚えてないんだけどね。


 正解だったようだ。

 地面に捨てられるように伏していたクロエと龍の巨体と向かい合う私の体がほんのりした光から強い輝きに変わり始めた。

「かくなる上は!」


 身動きの取れないクロエをグラムフェルトが襲う。

「させるかよ!」

 

カキンッ


 アレ?私!?

 いきなりクロエみたいな口調で話し始めた私がクロエの体を庇いに入った。

 でもアレは私じゃない。姿形は私だけど。

 クロエの体と入れ替わったみたいで体中が痛かった。

 せめて痛覚が麻痺してくれれば少しはマシなのに、、

「少し借りてるぜ?」


ゴォォォォッ


 おぃそんなイケメン顔すんなよ私の顔で!

「わ。スゴいカナちゃんとクロちゃんの共鳴数値上がりっぱなしだよ!」

 そんなん測ってないで早く逃げなさい!


ガンッ


「やだ!私はここから逃げない!」

 別に私は死ぬつもりはない。

_あくまでもつもりはね?


 でもクリューがそんなこと言ったらフラグ立っちゃうじゃない?

 ただでさえ入れ替わったせいで死にそうなのにさ。

 勘弁してよ。


ッガ


 ここはカッコよく撃退するシーンにさせて下さいよ。

「これが紋章の力だというの!?」


 忘れてた。

 私が無駄口してる間に二人はそれなりに戦っていた。

_首を上げるのもキツいほどの激痛でも。


 剣戟と二人の息づかい、声くらいは聞こえていた。


 グラムフェルトは今、二人の勇者から放たれた紋章の光に照らされて人間の姿に戻り、さらに弱体化を進めていた。


 具体的には縮み始めた。

 終いにはクリューくらいまで縮んで、

 クリュー曰く、

「数値も縮んでくよ!?」

 紋章は相手を弱体化させるのか。

「斬り裂かれろ!」

_ダメ!

「ダメ!」


 クリューと私の心が重なった時、クリューが幼女を庇う形で前に立ち塞がる。

 潤んだ瞳でクリューの背中を見つめる幼女と、寸前で刃を止めた私の間でクリューの山吹色の髪がさらさらと舞い散った。


_!

 瞬間その幼女の相貌が誰かと重なった気がした。

「ごめん。ありがとうクリュー」


 幼女になったグラムフェルトの体からは魔素マナはおろかソーマの気配すら感じられなくなっていた。

_たぶん。


 グラムフェルトは弱体化に伴って、制御ができなくなったのだろう。

 能力を失った人を倒すのは勇者のすることじゃない。


 クロエ〈?〉もそう思ってくれたのか剣を収めてくれた。

「私を倒さないの?」


 グラムフェルトの声で幼女は言った。

 幼女とは思えない底冷えのする笑みを浮かべながら。


「倒せるかよこんなチビ。もうなんの力も持ってないんだろ?」

 おもむろに私に近寄ってきた私〈クロエ〉が私を背負って歩き出した。


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