第4話

学校を出て人気のない路地裏を抜けると俺の大好きな喫茶店が目に入った。とても古い建物だが俺はそんな雰囲気が好きだ。「東条、ここが俺のお気に入りだ。」と自慢げに言うと彼女は「そう。早く入ろう。」と温度差を感じる感想をよこしてくれた。この感じいつになったら慣れるんだろうか…と店に入った。俺はいつも頼んでいるアイスコーヒーを頼むと彼女も同じものを頼んだ。何か話題をと「東条はコーヒー好き?」と聞いた。我ながら平凡な質問だ。彼女は「私はコーヒー好きだけどあなたも好きだったのね。なんだか意外。」と無機質にそう言った。「なんで意外なんだ?」と聞くと彼女は「わからない」と困った顔でそう言った。確かに俺はいつからコーヒーが好きになったのだろう。確かにあのコーヒーならではの深い香りは俺も好きだが飲むことはなかった。じゃあどうして俺は…と1人の世界に入り込んでいると彼女は不意に「私、星の王子さま好きなの。昔色々あって私は塞ぎ込んでた。でもふらふらと本屋に入るとあの本が目に入って買わなきゃ。と無意識にそう思った。」俺は「そうなんだ。それであの本読んでどう思った?」と聞くと「あの本は私を本の世界に閉じ込めてくれたわ」とそう言って笑った。俺はそのあまりにも美しい笑顔に呆気に取られた後、「閉じ込められたんだったら抜け出さなきゃね」と笑うと彼女は突然真剣な眼差しで「そうよ。抜け出さなければならないの。いつまでも子供みたいに閉じこもり続けるのはダメ」と言った。俺にはその意味がわからないし今聞けるような仲でもない。だから俺は何も言わずに頷いた。いつかその意味が聞ける関係になれば良いな。今は心からそう思う。

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