資金力だけで美少女魔法使いを仲間にする③

デニムの森は半日も歩けば抜けられると聞いていたが、俺にとっては楽じゃなかった。それもそのはず、ただでさえ引きこもりで運動不足なうえに、ゴブリンの群れが住処にしているせいか、どこからともなく奴らは襲いかかってくるのだ。


「まったく、自分の身を守ることも出来ないのね……」


ヴィオラが呆れたようにため息をつく。


「無理に決まってるだろう! あいつらの筋肉量を見たか? それに金棒を楊枝みたいにブンブン振り回しやがる」


「そんなの大したことないですよ……」


「もっと警戒して俺のことを守ってくれ……不意打ちでゴブリンに先制攻撃させられて首を吹っ飛ばされたらどうしてくれるんだよ!」


「最善は尽くすけど……」


「バリアみたいなの張れないのか? 攻撃半減とか中途半端なものじゃなく、攻撃を全く通さなくするような強力なやつ!」


「まるで勇者候補とは思えない台詞ね。私は攻撃メインの魔法使いですから使えないわ、申し訳ないけど……」


ヴィオラと会話している間にも、立て続けに人の気配を察したゴブリンが襲いかかってきた。しかし彼女はそれをものともせずに、疾風魔法『エアロナイフ』でバッタバッタと切り捨ててみせた。


「じゃあ、誰なら使えるんだ? 教えてくれよ」


「使えるとしたらヒーラーじゃないかしら。普通パーティに一人はいるわよね」


「ヒーラーか……なるほどね」


「また、良からぬことを考えていそうね……」


それからも、ヴィオラの小言を聞きながら獣道を延々と進んでいると、やっと出口の光が見えてきた。先には巨大な城と城下町が見える。これがグランシルバの町か。かなり都会そうだ。


『とりあえず、今日の宿とか探そうよー疲れたよー』


鞄の中でグースカ寝ていたアノが眠そうに飛び出してきた。


「アノはずっと寝てたんだから、疲れている訳ないだろ……俺も休みたいのはやまやまなんだが、時間も惜しいから少しでも情報を集めておきたい」


『変にやる気になってんじゃーん、何が知りたいんだよー?』


「この町で強い人間が集まるのはどこだ?」


「それは『ギルド』じゃないかしら?」


飄々とした表情で質問に答えるヴィオラ。彼女も延々と獣道を歩いてきたはずだが、全く疲れている素振りは見せなかった。流石鍛えられ方が違う……。


「なるほど、仕事がある場所には沢山のパーティが集まる。ということか……」


「変なこと考えてるでしょう……」


「考えてないって!」


ギルドは街の中心部にあった、中に入ると沢山の人で賑わっている。

仕事の依頼を受けに窓口で話をするものもいれば、賞金首モンスターの風貌を確認しているものもいた。


「ここで仕事を受けたり、賞金首モンスターを倒すことでパーティのレベルも上がるし、パーティ自体のランクも上がるのよ」


「パーティのランク?」


「高ければ高いほどより難しい依頼を受けたりできるの。例えば魔王討伐の資格を持つパーティは最高ランクの評価が必要よ」


「なるほどね」


ギルドの隅に貼られている各パーティのランク表を確認する。


<ランクS>グランシルバ・イージス

<ランクA>バーサーク・オリオン

<ランクA>チーム・ダンデライオン


SランクからCランクまであるようだ。

俺たちも普通にギルドに登録したらCランクからスタートすることになるということか。


「グランシルバにもランクSパーティがいたのね。でも<グランシルバ・イージス>なんて聞いたことがないなぁ……」


「ランクSが魔王討伐が可能なクラスのランクなのか?」


「そうね、この大陸中のパーティ見てもほとんどいないと思うわ。ちなみに私が所属していた<キス・オブ・ドラゴン>もSランクよ」


ヴィオラが所属していたパーティはそんな凄いところだったのか。異世界に来て早々目立ち過ぎることをしてしまったかな……。


「勝手に魔王討伐したらダメなのか?」


「ダメじゃないけど……ランクが足りないと国から認められないということだから、ありとあらゆる支援が貰えなくなるわ。例えば有志パーティがHP/PP回復のクリスタルを置いてくれているんだけど、それが起動できなくなるとかね」


「なるほど、そいつは厳しいかもなぁ……」


「こればっかりは仕方ないわね、私も覚悟は出来てるし、地道に仕事をするしかないわね。あ、これなんてどう? 迷子の子猫探しだって! うふふ、可愛いわね。こういう仕事をこなして、まずはBランクを目指しましょうよ」


「そんな悠長なことやってられないな……」


「えぇ……?」


少しの間考えたあと、俺に一つのアイデアが降りてきた。

このランクSのパーティを丸ごと買収すれば、ギルドの依頼をこなさずとも最高ランクになれるのではないだろうか。

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