求愛

 僕から逃げ出す足はいらないと思ったんだ。

 ——だがら切り落とした。

 僕を拒絶する腕はいらないと思ったんだ。

 ——だから轢き潰した。

 僕に酷いことを言う舌はいらないと思ったんだ。

 ——だから引き千切った。

 あぁ、かわいらしい君よ、僕を愛しておくれ。大丈夫、何も心配することはない。僕がいついかなるときであろうとも、君の隣にいると誓おう。病めるときも健やかなるときも、ってやつさ。素敵な言葉だね。

 そう泣かないでおくれよ、僕が大好きなのは君の笑顔だよ。冬の日の太陽のように柔らかく、温かく、僕の心を解きほぐしてくれる笑顔だよ。もちろん泣き顔だって魅力的だけれど、やっぱり笑っていてほしい。ほら、涙を拭ってあげるから。痛むのはじきによくなる。僕たちが愛し合うために必要なことだったと思えば、きっと忘れられるよ。

 こっちを向いて。涙に濡れた君の瞳も綺麗だね。恥ずかしがらずに愛しい君の顔を見せておくれ。ああほら、あんまり泣くから、髪までも濡れてしまっているよ。待っていてね、今乾かしてあげるから。

 僕はね、君の髪も好きなんだ。黒くて、長くて、艶があってね。時間をかけて手入れをしていたのでしょう? もとがよかったのもあるのだあろうね。

 さあ、乾いたよ。なかなかに上手いもんでしょう? これからは僕がやらなくてはいけないからね、結構勉強したんだよ。ほら、鏡を見てごらん。ご不満はありませんか、お姫様?

 ふふっ、涙も止まったね。笑ってごらん。やっぱり笑っている方が素敵だよ。この右頬にだけできるえくぼが僕は好きかな。ああそんな、逃げないでおくれよ、なにも怖いことなんかしない。本当だ。僕は君を愛しているのだと言っているだろう? どうして愛する者へ酷いことをしようというのだい。君が嫌がるようなこと、僕はしない。

 抱きしめても、いいかな。傷口に触れたりはしないよ、後ろから、優しくするから。

 温かいね。君の笑顔とおんなじだ。だけど少し硬いかな、緊張しているの? 気の強い君も、そんなふうにカチコチになるのだね。かわいらしいね、ますます君のことを好きになった。

 でも、これからずっと二人で生きていくのだから。そんなに緊張していては身がもたないよ。初々しいのも、いいけれど。こうして心を近づけていくのも、また一つの楽しみなのかな。

 一つ、わがままを言ってもいいかい? 僕のことを愛していると、言ってほしいんだ。ああもちろん、無理に喋れとは言わないよ、言葉にはならないだろうから。

 そうだね、それなら、どうしようか。僕の言葉に頷いてくれるだけでも構わないや。

「僕は君のことを愛している。君はどう?」

 ……ふふ、ありがとう。僕たちは、愛し合っているのだね。

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