第44話 線路は続くよどこまでも

「あれ?宗太君?ああ、やっぱり私たちって運命なんだね。えへへ」


 高揚によって高まった心拍数は、一瞬にして心的ストレスによるものへと変わった。

 彼女は何も死んだ訳ではない。だからこうして出くわすことがあっても不思議ではない。だがそういう風に割り切ることは出来そうにない。

 また深雪さんと出会うなんて。


「もう、心配してたんだよ!?からすぐに追いかけられなくってごめんね?お願い、許して」

 あくまでも監禁に罪悪感は無いようだ。

「ねえ、明智君、もしかして……」

「あれ?宗太君、そちらは?」

「はじめまして、私は柳って言うんだけど、アナタは?」

「氷室ですけど」

「そうなんだ、じゃあ失礼しますね、氷室さん」

「ちょっと待って。あなた、宗太君の何ですか?」

「分かんないかなぁ、今デート中なんだけど」

「は?デート?宗太君どういうこと!?」

 二人のとげとげしい言葉の応酬が、ザラザラとしたあの時の記憶を甦す。

「別にアナタに話す必要なんて無いから。じゃ、今度こそ失礼するわ」


 京子さんは戸惑う僕の腕を強く掴んで、駅の方へ引っ張る。

 深雪さんも追いかけるが、彼女の走り方には疲労感が見え隠れしている。

 知らぬ間に僕の電子乗車券を持っていたようで、流れるように駅構内へと進んでゆく。

 深雪さんも遅れじと進入し、他の人々と違って、電車ではなく、僕めがけて真っすぐに走ってくる。

「お願い!行かないで!!!」

 彼女は恥ずかしげもなく大声で呼びかける。ただでさえ少なからず目立っていた僕たちは、これによって直視する名分ができたと、ほぼ全方位から視線を向けられる。

 深雪さんの言葉に続くように鳴り響く発車メロディー。

 今の状況には不釣り合いな落ち着いたアナウンス。

 ドアが閉まるまであと数秒。

 京子さんが飛び乗る。

 ドアが今にも閉まりそうだ。

 駅員が何かを叫ぶ。

 おそらく駆け込み乗車を注意しているのだろう。

 ドアが動き出す!



 ドアが閉まるのと同時に、外側から深雪さんが窓を叩く。

 すかさず駅員が取り押さえる。

 ………僕は何とか挟まらずに乗ることが出来たのだった。

 深呼吸に呼応して段々と落ち着いてくる。走ったことによる発汗か、もしくは彼女と出会った事による焦りか、それともドアに挟まるかどうかのスリルがそうさせているのか。いずれにしても、スポーツのように爽快感のある汗でない事だけは断言できる。

 辺りを見回すと、都会にしては乗客が少ないように思えた。どうやらローカル線へと続く列車に乗ったらしい。時間も時間だ、今日はどこかに泊まりになるかもしれないな。

「ビックリしたね」

「………はい」

「ここだとハグは難しいから」

 そう言って京子さんは僕の手を握る。

「私は君を守ってみせるからね」

 疲労とリズミカルな電車の音に、僕は現実逃避よろしく、まぶたを強く閉じた。

 京子さんの優しさに浸るかのように………

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