第24話 過ちて改めざる是を過ちという(後悔に非ず)

「ぐ、くるしい」

 僕を起こしたのはいつもセットしてある目覚まし時計のベルの音ではなく、不憫な女性の声と謎の刺激だった。


「宗太君、苦しいよぉ♡」

「……え……ああ!ごめん!!」

 僕はいつの間にか深雪さんに、その………抱きつく形で寝てしまっていたようだ。皆まで言うな、しっかり自首するから。

 そんな朝にはゴシップを思わせる下品なシャッター音。

「ちょっと、智花さん!?」

「朝からお熱いね~」

 抱き癖なんて無いはずなので、おそらく深雪さんから抱きついてきたのだろうが、暖かくて気持ちい……じゃなくて!

「ご、ごめんね」

「えへへ、恥ずかしいね♡」

 ええ、それはもう改宗して、神の名のもとに我が貞操を保証したくなるほどに。

「朝からお腹いっぱいだわ~」

 僕は胸焼けがしそうですよ。


「えへへ、いい写真♡」

 映画やそれらの原作である小説の大半における『朝』というものは、往々にして二分化される。

 それも『忙しい』か『優雅』という二極的な時間帯であり、それらはキャラクターの社会身分でもって割り当てられる。

 裕福なご令嬢がアーリーモーニングティーを『優雅』に嗜んだかと思えば、おてんばな新社会人が菓子パンを冬越えに備えるかのように必死に食べたりするのが、現代のわが国における朝という時間なのだ。


 であるからして、ただいま深雪さんがしているように、ニヤニヤと頬っぺたをとろけさせながら、いかにも学生的な5枚切りでワンセットのお買い得なパンをトースターで焼いている様は、異様とまでは言わないにしても、朝のワンシーンと言うよりかは、バレンタインチョコを作っている放課後の恋する乙女といった雰囲気で、同じ空間に居る僕もいささか調子が狂ってしまう。

 これもひとえに智花さんの影響だ!と悪態をつくしかないという何とも情けないルサンチマンそのものなのであった。神は死んだ。


 いかに親密度が高く、わが国に対し、自由恋愛を輸出してきたアメリカ国であっても、単なるルームメイトが抱き合って朝を迎えるなどというは起こらない。

 三文ドラマであっても願い下げな展開。フランス人もきっと苦笑するだろうね。

 なぜならば、彼ら彼女らが寛容なのは、恋愛そのものに対してであって、ラディカルなコスモポリタニズムを推奨している訳ではないのだ。

『人類は皆、友である』と考えるのは構わなくとも、考えなしに実行するのはいただけけないのがする21世紀。

 それにしてもハグし過ぎ問題。


何難しい顔してるの~?」

「いえ、その……」

「あ~深雪ちゃんと同じで、さっきの事思い出してるんだ~」

「チガイマス!」

「図星だ、良かったね~みーちゃん」

「もう、恥ずかしいよぉ♡」

 パン焦げてますよ。僕の方は恥ずかしくて灰になりましたが。聖職者さま、どうぞ、わたくしを神のもとへお送りくださいませ。灰は灰に、塵は塵に………

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