第二章

第21話 注:不審者です。

「僕は君を―――――」


 僕の世界を一変させてしまう言葉を発しかけたまさにその時である。


 <ピンポン!ピンポン!ピンポーン!>

 YouT〇berがバカ騒ぎしているのを近隣住民が糾弾しに来たかのようなインターホン連打。『お約束だな』と斜に構えるより、正直なところ恐怖感の方が強かったくらいだ。

 意外な事に深雪さんはそうではない様子。普段のイメージでは『宗太君怖いよ!』と言って抱きついて……って僕は何のんきに妄想なんかしてるんだ!

 ともかく、今の深雪さんの眼は怒りに満ちていた。


 ***

 は?何これ。ほら、宗太君怖がってるじゃん。

 ちょっとかわいいけど、私たちの日常を妨害するヤツは絶対に許さない。絶対に。許さない。

 でも前みたいに簡単にドアを開けて、スタンガンなんか持ちだされたら………

 とりあえずチェーンロックをつけよう。宗太君、待ってて。敵は排除する。

 それが私の役目。メイドで司書で…………もうすぐ彼女になれたのに!

 

 のぞき穴から見えるのは私より年上っぽい女。宗太君には妹と私以外に知り合いなんていない。じゃあ誰?

 帽子を目深にかぶってるせいで顔が見えない。もしかして変質者?

 てか、インターホン連打なんて異常者か『警察だぁ!』のシーンでしかあり得ないし。でもこの女は私服警官には思えない。

 異常者であれば立派な抵抗勢力。私がしっかり宗太君を守らないと!


「み、深雪さんは行かない方が……」

 男の子らしく私を守ろうとしてくれてる♡

 でも大丈夫!これは私に与えられた試練だよ!これを乗り越えたら、きっと宗太君と、よりハッピーな毎日を送れるはずなんだから!

 笑顔で「大丈夫だよ」と言うと、「じゃあ一緒に行く」って。ホントさっきから小さい男の子みたいでかわいい♡

 ***


 大丈夫って笑顔で言ってたけど目が全然笑ってなかった。これはここに来てまだ日が浅かった―初めてハグする事となった―あの時みたいに、自分を抑えられなくなるかもしれない。

 物語を四六時中求めている僕と言えど、目の前で惨劇が繰り広げられるのはたまったものじゃない。

 互いを補いあうのも、同居生活の根本支柱。ここで『じゃあ僕は本読んでるから』などと言ったなら、今まで何を学んできたのかと天罰が下りかねない。


 深雪さんが念のためにチェーンロックをかける。そして緊張の中ご対面。

「どちら様でしょうか……?」

 なるべく神経を逆なでしないように、丁寧に言葉を選ぶ。深雪さんは睨みつけてるけど。

 だが一変して「あれ?」と目を丸くし、今度はジロジロと謎の女性を見回す。

「もしかして……」

 深雪さんがその女性の帽子を脱がすと、そこには<美人>が居た。

 インターホンを連打するような輩には全く見えず、清楚でクールな黒上ロングのお姉さんといった感じだ。

「何しに来たの」

「みーちゃん元気にしてるかなぁ~って」

「み、みーちゃん!?」

「彼氏くん?」

「か、彼氏くん!?」

「宗太君、この人は私の姉の智花ともかです。それで、明智宗太君です」

「こんにちは」

「はい、こんにちは」

 おっとりした雰囲気を醸し出しているけど、インターホン連打…………

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