片思い&片思いvs両想い

かんた

第1話

「…………で? また別れたの? 毎度毎度、何してんの」


「俺が、俺が悪いんだ……! また茉穂まほを泣かせるようなことを言ったんだ……!」


俺、黒木雄太くろきゆうたの目の前で泣いている、でかくてうるさいこいつは、佐藤竣さとうしゅんだ。

ただでさえ煩わしいこいつが、大声で泣きながら目の前のジョッキを掴んで一気に飲み干し、また机に突っ伏してうだうだしているのを見ていると、本当にムカついてくる。


(……しかもこいつ、俺が頼んだビール飲みやがった、ふざけんなよ)


……前言撤回、ムカついてきた、ではない、殺意が沸いてきた。

まあ、いったん殺意は脇によけて、竣に何があったのかを聞くことにした。

その前に、竣に飲まれたビールを頼みなおすことにして、ちょうど近くを通りかかった店員にビールを頼み、運ばれてきたビールに口をつけながら、口を開いた。


「それで、今回は何したんだよ」


「うう……ぐすっ」


話を聞こうとしたのに、目の前のこいつは泣くだけで何も話しだそうとしない。

それどころか、船をこぎ始めた。

その様子を見て、どんどんイライラが溜まっていくのを感じながら、もう今日はこいつは何も話さないだろうと思ったので、話を聞くことを止めて、せっかく居酒屋に来ているのだから酒を楽しもうと思い、メニューを開いて次に何を頼むか考え始めた。


(はあ……きっと向こうも似たような状況になってるんだろうな……)


今頃、茉穂に泣きつかれて苦労しているだろう、自分の幼馴染のことを考えながら。





その頃、別の居酒屋で私、早坂有咲はやさかありさは高校で出会い、大学も同じで仲の良い友人である、西木茉穂にしきまほの別れ話の相談をされていた。


「それで? 次はどっちが悪いの?」


「私が悪いんだ、竣くんにあんなこと言わせちゃう私がダメなんだよ……」


泣きながらそう言う茉穂を見て、


(それじゃあ何も伝わらないわよ……もっと詳しく話してくれないと)


そう思いながらも、話を促してもどうせしばらく話し始めることは無いと踏んで、しばらくは黙っていることにした。


そうして、しばらく料理に舌鼓を打っていると、ようやく茉穂が話し始めた。

途中、何度も泣き出すので余計に時間がかかったが、分かったことは、彼氏の竣がやっているゲームのオフ会に参加したらしく、そこで出会った女の人と仲良さそうにしているのを偶然見かけた茉穂の友達がいて、茉穂に浮気されてるんじゃ、と伝えたらしく、そこから喧嘩になったらしい。

それで、問い詰めていたら互いにヒートアップしたらしく、そこで竣にプライベートぐらい自由にさせろ、と言われたらしく、それで泣いて、別れたようだった。


(…………何度も何度も、よく飽きないなあ、この二人)


話を聞いて、呆れながらもとりあえず目の前でずっと泣かれていても迷惑なので慰めながら、どんどん酒を頼んでは空にしていく茉穂を見て、


(今日も家まで送らないといけないのか……)


と、帰る時のことを考えて遠い目をしていた。




「もしもし、雄太、そっちはどんな感じ?」


〈んあ、有咲か。今終わって解散したとこ。電話してきたってことは、そっちもか、お疲れさん〉


「雄太こそ、お疲れ。てことで、いつも通りのとこで待ってるから」


〈了解、すぐ行くわ〉


酔って眠りそうになっていた茉穂を家まで送り届けて雄太に電話をすると、雄太もちょうど空いたところだったので、もはや常連となりつつあるバーへと入って、雄太を待っていた。


「有咲、お待たせ」


「ああ、雄太……お疲れ」


「有咲こそ、お疲れ」


「「……はぁ」」


雄太が来て、挨拶を交わすと、自然と二人ともため息がこぼれた。

それも仕方ないことだろう、竣と茉穂の二人は何度も喧嘩して別れては、雄太と有咲の二人に泣きついてきて、その度に話を聞いて慰めて、といったことをこれまでに何度もしてきているのだから。……まあ、ため息の訳はそれだけではないのだけれど。


「いい加減、別れるなら別れてくれないかな……どうせ今回もそのうち復縁しているんだろうし」


「そうだよね……それにどうせなら竣君が私の方に泣きついてきてくれればいいのに」


「それを言ったら、俺も茉穂ちゃんに相談してきて欲しいのに……」


「「……はぁ」」


また二人の口からため息が漏れた。

そう、二人はそれぞれの友人の恋人に片思いしているのだった。

竣と茉穂が分かれるたびに、そのまま狙おうとしているのだが、気付いたら復縁しているのだから、かっさらっていくことも出来ないまま、かれこれ高校の頃から何度したか分からないほど重ねた相談を、二人はまた始めるのだった。

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