番外編 はじめてのお出かけ

それは、真月がGMUにやってきて間もなくのこと。

「真月君!出かけんで!」

朝の訓練を終えた真月のもとに日向と桜賀が突撃してきた。今日は土曜日で、二人とも学校は休みである。

「…どこに?」

唐突な日向の言葉に、真月は小首をかしげた。

「真月の部屋なんもねえだろ?家具とか見に行くぞ」

桜賀にそういわれて真月は自分に与えられた寮の部屋を思い出す。確かに真月の部屋には布団くらいしかない。しかし真月にはそれだけあれば充分だ。

「いやいや!勉強するのに机とかもいるし、クローゼットの中もなんも入ってへんやん!」

しかし、真月の考えは信じられないと言わんばかりに否定された。日向は真月の部屋が殺風景で何もない事をずっと気にしていたのだ。

別に真月は困っていないが、二人には不便な部屋にしか見えないらしい。だが家具を揃えるにもお金の問題もある。やはり不要だと二人に伝えようと思い、真月が口を開く前に桜賀は先に口を開いた。

「生活に必要なもんは経費で落ちるから大丈夫だ」

余りにも高価なものなどは別だが、必要な家具ぐらいなら普通に出してくれる。桜賀はそういって真月がお金のことに言及しようとする前に真月の言葉を封じた。

そのことについては御見通しの様だ。

「でも…」

それでも渋る真月を二人は必死に説得した。

なんでも、二人は休みになったら真月を連れ出そうと画策していたらしい。あまりの必死さに真月が折れてしまい、真月は午後から町に出かけることになった。


「わぁ…人いっぱい!」

三人はGMUから少し離れた場所にある大きなショッピングモールへとやってきた。あまりの人の多さと、物珍しさに真月は目をキラキラ輝かせていた。外出は両親と教会に出かけるくらいしかしたことがなかった真月にとっては何もかもが新鮮だった。

「日向!これ何?」

「あ!あれは?」

「ねえねえ!噴水があるよ!」

日向や桜賀の手を引きながら、あれは何か、これは何かと聞く真月は見た目と相まって非常にほほえましい光景であった。

真月は七分丈の茶色いパンツとシンプルな白いTシャツ。その上に大きめの薄いグレーのパーカーを着ている。パーカーはウサ耳と尻尾のついた可愛らしい着ぐるみパーカーである。もちろんチョイスは日向と桜賀だ。

「グッジョブ、俺」

桜賀は自画自賛し、日向は真月乃かわいさに悶えている。一歩間違えれば不審者だ。

真月が興味を示す店を冷やかしながら、三人はモールを歩きまわった。

ようやく目的の店につく頃には一、二時間は経ってしまっていた。

「まずは何がいい?」

「そうやな…ベッド、机、ラグ、カーテンは見んとあかんのちゃう?」

「色合いも考えないとだめだな」

二人の会話を横で聞いていた真月は、何が何だかさっぱり分からない。なので真月はまるっと二人に任せてしまうことに決めた。二人は真月の部屋の家具にも関わらず、ああでもない、こうでもないと楽しそうである。

二人が楽しいなら真月はまあいいかと、二人について回ることにした。

最初に向かったのはベッドのコーナー。

「シングルベッドは……ここだな」

当然ベッドはシングルサイズなので、三人が向かったのはシングルサイズのベッドが集まるコーナー。それでも色々なベッドが展示してあり、ベッドを選ぶだけでも苦労しそうである。

「たくさんあるね」

「そうやな」

二人に促されて、真月は展示されているベッドに座ったり寝転んだりと意外にせわしない。

二人はデザインを見てダメ出ししたり、真月と一緒に座ってみたりしている。

そして、最終的に選ばれたのはシンプルな薄茶色のベッドだった。部屋にはクローゼットがあるため収納スペースは不要だ。後は掃除がしやすくて、下手に高機能なものは真月が不要だと主張して決まった。

ベッドのカバーは若草色のものを真月が気に入ったため即座に決まり、カーテンも同色で蔦模様のきれいなものを購入した。

「ベッド選ぶだけでだいぶ時間かかってしもたなぁ」

納得のいくものが選べたのはいいが、ベッドを決めるだけで一時間以上の時間が経過していた。

「ちょっと休憩するか…」

桜賀の提案で三人はフードコートで一休みすることになった。

すでに十六時に近い時間帯であるため、フードコートの人はまばらだ。

「俺、のど乾いた」

「せやな。なんか飲みもん買おか」

「俺はここでで席取りしとく。いつもの頼む」

「はいはい。ブラックコーヒーやな」

真月と日向は桜賀を残して飲み物を買いに席を立った。

二人は手を繋ぎながら、近くの自販機へと向かう。

「ねえ、知ってる?ここの噂」

「え?噂?なにそれ!?」

「なになに?知りたい!」

それは、真月と日向が向かった自販機のそばにいた女の子たちの声だった。

「ここの二階にある変なモニュメントが動くって話があるの」

「へー。それってよくある奴じゃない!」

「うん。でもモニュメントが移動する訳じゃなくてね……」

それはよくあるオカルト話。彼女たちは楽しそうに話をしている。

それを聞いていた真月は、半信半疑で日向に尋ねた。

「動くのかな?」

「モニュメントが?」

「うん」

目的の飲料を購入し、未だに自販機のそばで盛り上がる女の子たちを日向はチラリと見た。

「動くかもしれんな」

実際に見たわけではないのでなんとも言えないが、例えただの噂話でもいつかは本当になる日が来るかも知れない。そう考えれば動かないとは日向には言い切れなかった。

「ああやって噂が広がれば、今は動かんくてもいつか動き出すんやで」

「ふーん。…あ、怪異になるの?」

「そういうことやな」

日向の言葉に真月は成る程と納得した。怪異とは、人の認知によって生み出されるのだ。

「ただいま」

二人が席に戻ると、桜賀はスマホでゲームをしていた。

桜賀は空いた片手をヒラヒラとさせ、横着に二人を迎えてくれる。

各々、飲料を手に三人は再び机を囲んだ。真月たちはたわいもない話をしながら、三十分ほどの休憩を取る。

「そろそろ、他のもん決めんと帰るとくらなるな」

まだ四月も半ば、十八時を過ぎれば日が落ち始める。

「行くか…」

桜賀の言葉を合図に、三人はおもむろに席を立った。

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