第5話:行動力

「いいか、家は自分で建てないといけないぞ。

 おい、こら、なにをしている、そこは聖女様はお住いの場所だ、近づくな!」


 神殿長の行動力にはとても驚かされます。

 私は基本待ちの性格で、相手の行動を待って対抗策を考え反撃します。

 ですが神殿長は、積極的に自分から動いて問題を解決しようとします。

 その行動力には感心しますし、尊敬もします。

 それにしても、私の話を聞いたその日のうちに、難民を集めてくるとは思いませんでした。


「いいか、森に入る時は仲間で班を作って獣に備えるんだ。

 武器は竹で槍を作るから、全員で竹を切りに行くからな。

 今日の食事は私が狩った獣を与えるが、できるだけ自分たちで狩るようにするんだ、いいな、分かったな」


 神殿長が難民たちに神殿のやり方、いえ、それを超えて、住むための小屋の立て方や、竹槍の作り方、獣の狩り方を教えています。

 とても一度では覚えられないと思うのですが、これが神殿長のやり方なのですね。

 将軍時代には、寄せ集めの兵士を一人前の育てていたそうですから、難民を神殿の下働きにするくらい朝飯前なのでしょう。

 ですが、中には悪心を隠す者もいるでしょうから、ちょっと脅かしておきます。


「神殿長、子供たちもいますし、その獣だけではお腹一杯にならないでしょう。

 私の聖女の力を使って、獣を狩らせてもらいますから、それを孤児やその者たちに下賜してやってください」


「は、承りました、聖女様」


 あまり賢くない神殿長ですが、将軍を務めていただけに、上下関係には素直に従ってくれるので助かります。

 私が聖女として行動する時は、決して神殿長の地位を振りかざしません。

 聖女の私の方が、神殿長よりも上位者だと、周囲にも知らしめてくれます。

 私は神々に祈るふりをして、見えない魔獣に狩りをお願いしました。


 ほとんど待つことなく、魔獣は大きな鹿を仕留めてくれました。

 神殿長や難民には、大きな鹿が宙に浮いているように見えるでしょう。

 ですが私には、魔獣が鹿を咥えて運んでくれているのがみえます。

 魔獣は私の足元に仕留めた大鹿を置いてくれます。

 私は感謝の心を込めて魔獣を撫でさすり慰撫してあげます。

 甘えた魔獣が私の脚に頭をすりつけてきます。


「いいですか、この大鹿は神の御使いが私のために狩ってくれたものです。

 それをお前達に下賜しますので、神様に感謝しなさい。

 神に感謝の心がない者がいたら、次の下賜はないと思いなさい!」


「おい、神様と聖女様に感謝の祈りを捧げないか、馬鹿者!」


 神殿長の叱責を受けて、難民たちが神様と私に感謝の祈りを捧げますが、体裁を整えるだけで、本当は私に獣欲を向けている者もいるでしょう。

 そういう者は、明日魔獣に始末してもらいましょう。

 

「もう数頭狩っていただきますから、神様に捧げる分を最初に除いて公平に分けなさい、いいですか、公平に分けるのですよ、それも神様は見ておられますからね」

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