【第一幕 運命編】聖剣士リヴァイア物語 ~ リヴァイア・レ・クリスタリア ~

橙ともん

序章 聖サクランボの修道士見習い……。

第1話 おたんじょうび会♡

「いつかの、サクランボさんへ……」


「……サクラ、咲くかな?」

 私は思わず、その言葉を声に出した。

 テラスから目の前に見えているサクラの大樹を見つめながら、小声で……私は呟いた。


『……もう、俺は君には逢ってはいけないのだろう。……それでも、いつの日にか、必ず、君の前に姿を現す日が来ることを、君は信じてくれるかい?』


 そう言って……彼は、左手を私に見せてくれた。

 ――私は、彼の手の平を見た。

 彼の手の平に乗っていたのは、それは小さな赤い実だった。小さいけれど、ふっくらとした赤い果実。


 ああっ! 食べたことあるよ、これ!! って。……私は思わず、心の中で言っちゃたっけ?



 そう、それは『サクランボ』だった。



「見ていてごらん……」

 と、彼は言った。

 しゃがんで両手で土を掘って………。それから、その『サクランボ』を掘った土の穴底に置いた。

 ふと……彼が、私の顔を見て微笑んだ。


「……………?」


 私は、じ~っと……、彼の微笑んだ顔を見つめた。でも、彼がどうして微笑んだのか、意味は分からなかった。


 ……しばらく微笑んで、彼の視線は私から、その『サクランボ』が置いてある土の穴底に向いた。

 ――置いた後、彼はすぐに両手で埋め戻した。『サクランボ』を植物の種子のように埋めたのであった。


 それから彼は、……彼は、……………両手を器用に動かしたのです。もう一度、……ですって。


 ▽+△ …………………………………… ?????


 なにやら? 怪しいジェスチャーである。それに、小声で何やら喋っている。……もごもごと、もごもごと、なんだか呪文のような?? 私はそう感じて。


 ……まるで、御伽噺に登場する魔女が、グツグツと煮えたぎった壺の中の、いかにもマズそうなおどろおどろしい色彩のスープの中に、棚から瓶を手に取って、瓶詰にされていたリザード系のモンスターの尻尾を、ちょぼんっと入れて、その時に――



 チェリーレイス   チェリーレイス   チェリーレイス………



 彼は小声で、確かにそう言った……。


 ん?


 私には、そう聞こえたんだけれどね…………………。これも、やっぱり意味不明な言葉だった。





 ――じ~。


 いつものように?

 邪険な表情で、眉をひそませ見つめている子は、聖サクランボの問題児……じゃないのだけれど、一風変わった7歳の女の子、フレカである。

 その視線の先にあるのは……? もとい、いるのは……。


「バムくんさ! あんた? さっきからそこで無言で、もごもごしているだけれどさ、なんなの? バムのその『やる気まったくないんです~態度』なんなのかな?」

 ……さっきからフレカは、こういう理由で、5歳の男の子、バムに対してムッとした表情になっていた。

「だからさ~。ボク無理だよ……」

 バムは俯いて、そう返事した。

「……はいはい! 人が話している時には、相手の顔を見る!」

 パンパンと、柏手を打つように手を叩いて、フレカはバムに指摘した。


「ボク~」

 顔を上げるバム。

「自信ないってば……」

 ブンブンと顔を左右に振って、ノーのジェスチャー。

「……あんたさ! やってもいないのに無理だよって、ちょっとさ、舐めてんの?」

「……もうっ。舐めてないってば、フレカおねえちゃん」

 ……なんだか、バムの目がウルウルと。



「もう! フレカ!! すぐそうやって相手のことを決めつけて、突っ掛かっていくんだから。そういうところ、あなたもお姉ちゃんなんだからさ、直しなさい!」

 フレカの頭をナデナデしながらそう言ったのは、9歳の女の子、クアルである。


 ――児童養護施設『聖サクランボ』の名物? 3人組の、フレカ、バム、そして年長のクアルが、さっきから園内の食堂の隅でヒソヒソと……じゃまったくなくて、堂々と、何やら話し込んでいる。

「クアルは、そーやって、いつもお姉さんぶってさ……」

 口を『ぶ~』っと、お多福のように膨らませて、クアルを見上げるフレカ。

「そういうフレカも、バムにお姉さんぶりたいだけなんでしょう? 違うかな??」

 と、……まあ本当に9歳の女の子だから……ということもあるけれど、でも、客観的にも、2人のお姉さんだしね……。

「だいたい! フレカが言い出しっぺなんだから、あなたがやりなさいよ!」


「ええ~! いやーだ!!」

 でたね!! フレカのだだっ子ぶり。


「……あ…、私はさ、『しゅさいしゃ』なんだから、どうして私が、バムの立場になんなきゃいけないのよ。しゅさいしゃなんだから……こう、堂々と待ち受けるのよね。私は……」

 と言って、腕組みして自分の顔をクアルから背けた。

 ところで、『しゅさいしゃ』って、よくこんな難しい言葉覚えたね。

「あ……、私がしゅさいしゃなんだから、ゲームでもそうでしょ、クアル? しゅさいはいつも目立って、モンスターと立ち向かって、戦って……。それが、しゅさいってもんじゃない?」


 どうやら、『主催』と『主役』を覚え間違いしているみたいだね。

 相変わらずの利己的な性格……7歳だから、まだまだ、しょうがないのかな?


「フレカ! それを言うなら主催じゃなくて主役でしょ?」

 さすが年長のクアル。しっかりとフレカの間違いを指摘できました。

「あのね? 主役はリヴァイアなんだからね。あなたが企画したのでしょ? そこのところ、しっかりとしなさいよ!」

 キカクって……、9歳の女の子が言うんだ。なんかすごい。


 ところで、これ……なんの話し合いなんだろうね?


「今日、6月7日は、……はいはい! 私からの謎々~。バムど〜ぞ」

 右手で指差して……その先には勿論バムがいる。


「……え~と??」

 まだ5歳の男の子だよ。

「チックたっく。チックたっく。チックたっく。チックたっく。チックたっく……」

 と、フレカが自分の口でそう呟きながら……こういうところが可愛いよね。……でも、


 ――じ~。


 という視線、それは変わらないんだな。

「もう! フレカ、バムが困っているでしょ? やめなさい」

 と、フレカの頭を再びナデナデしながら、クアルはそう言った。

「……うん、わかったよ!」

 バムが思い出したみたい。


「きょうは、リヴァイアのおたんじょうび会だ!」


「ピンポーン」


 バムに指差していた指を、今度は真上へと向けて、まるで自由の女神のようなポーズで正解を言い渡したフレカ。

「……んで?」

 更にすかさず、

「……で?」

 バムが首を傾ける。

「んもん!! バム~」

「フレカってば、やめなさいって!」

「やめなーいって!!」

 あ、やっぱし。……フレカのこのやんちゃな性格。さすがの年長のクアルも、手古摺っているようだ。


 しばらくして――

「……ボクがリヴァイアを……さりげなく。この食堂に、案内すればいいんだよ……ね?」

「バム! だいせいかーい!!」

 満面の、満足した、とびきりの笑顔になったフレカであった。

「そうそう……」

 自由の女神のポーズから、今度は腕を組んで。

「そう! 今日は修道士見習いリヴァイアの……年齢は知らないけれど、そう……お誕生日なのでーす!!」


「だから! いつもいつもリヴァイアにお世話になっているんだから……、今日は、リヴァイアをみんなで、この食堂に招待して、お祝いしてあげましょう! っていう私のこのキカク!」

 フレカもキカクって言ったね。

 ……クアルと同じく、2人とも難しい言葉よく知っているよ。



「あらっ! 仲良し3人組達。何話しているのかな?? ネプティーにも教えてちょーだいな!」

 いきなり食堂の入り口から、……ドアはいつも開けっ放しだけれど、入り口からそう言って食堂に入って来たのは、リヴァイアと同じく修道士見習いネプティーだった。


「ネ……ネプティー!!」

「なになに?? クアル?」

 このネプティー、いつもハイテンションなノリの修道士見習いである。

「わ……私達、リヴァイアのお誕生日会の話し合いをしていました」

 恐縮じゃないけれど、年長のクアル。食堂に入ってきたネプティーを振り向き見るなり、……なんと一礼までしてネプティーにそう申した。


「……ん? ……ああ、ああ~」

 ネプティーが、うんうんうんと何度も頭を上下にふって

「そうだったねー!! 今日はリヴァイアの『もう、20歳過ぎ』のハッピーバースデーだった!!」


『もう、20歳過ぎ』って言い方、それいけず??


「はいネプティー。それで」

 とクアル。

「それでバムに、まず園の入り口に待機してもらって、帰ってきたリヴァイアを食堂までエスコートしてもらおうと……」

 礼儀正しく説明をするクアルだ。

「へえー。バムが……」

「はい、ネプティー」

 バム、可愛くペコリ……。

「……バム。君はすごいね~」

「すごい?」

 まあ、意味分からないよね?


「うんうん……」

 再び首を上下にふって、

「偉い、偉いよバム!! 先生は君のこと凄いなーって思う!!」

「えらい? ほんとに?」

 バム。ネプティーのその言葉を聞いてさ、うれしいよね! ネプティーから褒められたらね。


「だってさ! エスコート……リヴァイアを、この食堂まで連れてくるって!! 古今東西……」

「ここんとうざい??」

 これも分からないよね、バムには。

「……昔っから、女性をエスコートするのはバム! 男子のお仕事なんだからさ。……バム! しっかりとエスコートしようね!!」

 と言って、ネプティーはバムの頭をナデナデ…………ナデナデと……

「うん! ……ボク、頑張る」


 …………じ~。


 という、フレカからの横槍な視線。いつものことだけど――

 今回のこれは、明らかにネプティーへの嫉妬だよね?

「……ほらほーら!! フレカも」

 ネプティーはそう言うと、今度は、フレカの頭をナデナデと……

「……えへっ」

 とフレカ。げんきんだねぇ~。

「私が『しゅやくしゃ』なんだから当然よ!」

 えっへん! と両手を腰に当てながら。

「フレカ。それを言うなら『しゅやくしゃ』じゃなくって『しゅさいしゃ』だよ」

 ネプティーがニッコリと7歳の女の子にツッコミを入れる。


「あの……先生」

 今度はクアルがネプティーに話しかける。

「なに、な~に?」

 明るいテンションのネプティー。

「……あの」

 …………もじもじ。

「なになに??」

 見つめるネプティーだ……。

「…………お手数を、そのお掛けします」

 ぺこりする……クアル。

 それを見て、ネプティーはというと……


「あははっ、みーんな、リヴァイアのことが大好きなんだね」

 ニッコリした。 (*^_^*)

「…………はい!」

 クアル。フレカとバムが、続いてうんうんと頷いた。


「心配しなくていいよ! エスナータ修道士にも、もう伝えてあるしね」

 ネプティー、両腰に手を当てて、

「それに、この日のためにさ、聖サクランボでも……」

 と、ネプティーが指差したのは食堂の冷蔵庫だ。

「市場のケーキ屋で作ってもらったよね。リヴァイアへのバースデーケーキをさ……。みんなで美味しく食べようね。ぜ~ったいに美味しいからね!!」

「はい!!」

「はいネプティー!!」

「うん!!!」


 うんうん……。ニッコリと何度もなんども、うなずくネプティー。



「……そうそう! みんな、リヴァイアへのプレゼントはちゃんと用意したのかな?」

 両腰に手を当てていたネプティー。今度は、ガッテンな感じで、ポンっと右手をグーにして、パーの左手に置いた。

「……それは、しっかりと用意してます」

 とフレカが言う。

「私のプレゼントは…………これ!」

 ポッケから一枚の紙切れを取り出して、


「テッテレ~!! お悩み解決相談券!!!」

(ああ……肩叩き券のたぐいだね)


「私は、リヴァイアにこれを……」

 次に、クアルが……これも、ポッケから取り出したのは、


 てってれー!! (これは作者の自発的な効果音です)


 クアルが見せたそれは、しおりであった。

 ――見ると、栞には押し花が飾ってある。

「クアル? これ自分で……」

「はい! 作りました」

 クアルが手に持っていた栞を、ネプティーがちょいと拝借して、

「……へえー。すごいじゃん! よく作ったね~」

「……そ、そうですか?」

 照れているクアル。

「これキキョウの花だよね?」

 栞を表裏と触りながら、そこに押し花として飾ってあるその花を、ネプティーが見つめながら聞いた。

「はい……。わ…その………………わ、私の誕生日の誕生花が」

「うん。キキョウだよね!」

 とネプティーニッコリ♡

「……だから、いつも…………リヴァイアに、お世話になっているから……」


「あはは!」


 再びネプティーが両手を腰に、

「クアルちゃん? そんなこと考えていたんだ。…………なってないよ。なってないって、ないよってば」

 けれど……すぐに、腰に当てていた両手を無いない! という感じで両手で左右に振ったり、バッテンしたりして否定するジェスチャーを見せるネプティーだった。

「……………」

「クアルは……本当に良い子だよ」


「…………そうですか?」


「そうだよ!」

 ネプティー。

「お世話になっているのはさ、私達、修道士見習いの方なんだよ」

「どういうことですか? ネプティー」

 クアルは首を傾けた。

「ふふふっ……」

 と笑ったきりで、それ以上、何も言わなかったネプティー先生であった。



「……ボク」

 最後にバム。

「うん!!」

 ネプティー、大きく笑顔で頷く。

「……ボク。…………リヴァイアに、お歌をプレゼントしようと思っています」

「すごいじゃん!! 凄い! 凄い! 凄い! すご~いよ!! バム!!!」


(んへへ………)

 なんだか、照れながら笑ってる。


「み~んな、頑張ってさ、いい子だよ。ほんと、ほんとにね」

 グズん……。ネプティーの涙腺が少し緩んだ。





「――あっ、リヴァイアだ!!」

「……? ?? ああっ!」


 食堂の窓越しに外を見て、

「帰ってきたよ! みんな!!」

 とネプティーが言って、

「リヴァイアが買い出しから帰ってきたよ」

 ささっ、早く、早く~という具合に3人に知らせた。

「ちょ。バムって。もう! 早く玄関行け!!」

 なんと、シッ! シッ! てな具合で、バムを『早く行って、スタンバレよ』っていうジェスチャーをするフレカ……。

「こらこらっ。フレカ。メッっよ」

 シッ! シッ! のジェスチャーをしているフレカの手をギュッと握って、

「フレカはね、バムのお姉ちゃんなんだからね。もっと優しく言いな…………ね?」


「…………うん。……はーい」

 フレカ、素直にネプティーにそう言った。

 そんなやり取りを気にせず(分からず)、バムが玄関へとスタスタと歩いて行った。


「あ……私達も、スタンバりましょう!」

 フレカ。

「ネプティー……では、よろしくお願いします」

 年長のクアル。深々と頭を下げてそう言って、

「……ははははっ。はい! はいな!!」

 笑ったネプティーである。

「まあまあ。クアル……そんなにさ、畏まらんでいいから、いいからさ! 私も、エスナータ修道士もさ! 上手いことやったるじゃん! 大丈夫やって!」

 じゃん? やって??





 ――児童養護施設『聖さくらんぼ』の門の前。


「たっだいまー!!」

 ……ああ、なんか重いよ。私は『たっだいまー!!』の後、心の中で、そう呟いた。

 園の買い出しも楽じゃないよ……。

 近所の万屋へと行って、……と思ったら、石畳を敷き直す工事中だからって、警備兵さんに『迂回してください』って言われて、


「ちょい ちょい ちょいな!!」


 私はそう叫んで、

「イヤだから通してよ」

「ダメです」

「なんで??」

「いま、石畳を敷き直している最中ですから。ダメですって」


「そりゃ、見りゃ分かるけど。いやいや……」

 目前に万屋が見えているのに……。

「……ねぇ? 通してって!」

 っていう警備兵さんとのやり取りがあって……。

 でも、結局通ることはダメですって言われて。

 ダメだから……、だったら。


(……ああ、通りたくないんだよね。この大通りの側道って)


 でも、しょうがないから、私はしぶしぶと…………トホホなんだけれど……歩いた。


 ――いつも通っている……聖さくらんぼへの通いにも使っている十字路。

 本来ならば、ここで右折して徒歩数分の万屋へと行くのがセオリーなんだけれどね。でも、今日はここを直進しちゃった。

 理由は先に言った通り、舗装中だってさ。でも夜には終わりますって……。


 それじゃ買い出しにならんわい!!


 んで、十字路を越えて。歩きたくない側道を…………ここ危ないんだよね。

 聖さくらんぼでも、初夏のお散歩コースにも絶対に、この側道だけは選ばないようにとの、エスナータ修道士の御達しがあったっけ?

 理由はとても簡単だ。危ないからである……。

 だってさ、この側道からずーっと向こうの大通りの交差点の混雑具合を嫌って、側道に抜けてくる馬車がかなり多いからだ。


 ほんと……。この側道って、すぐそこに神学校もあるのに、みんな登下校にこの道路を使っているのに。混雑が面倒だから側道に抜けて。


 ほんと、少しは子供の身の安全を考えろってーの! この、ガキんちょ馭者ぎょしゃ!!

 とかなんとか……ブツブツと。



「リヴァイア!!」

「? ?? ………ああ、バム」

「リヴァイア!」

「なになに?」

 何かあったのって、私思って。

「バム! どうしたの?? そんなに慌ててさ…………」

 って私。


「リヴァイア!!」

 はあはあ……よっぽど走ってきたのだろう。肩を揺らして深呼吸している。


「…………ほらっバム!」

 私は買い出しした籠から、ちょうど本日賞味期限ということで、半額セール中だった“スライムゼリージュース”をバムに渡した。


 ゴクゴク……。


 バム。一心不乱に、そのジュースをゴクゴクと飲んでいる。

「……あのバム? 何か私に伝えたいことでもあるのかな…………。それって、もしかしてエスナータ修道士からなのかな? 私は皆目、分かんないよ」


 ゴクゴク……。


「あの……バム?」

「~んはっ。美味しかった、ありがとうリヴァイア!」

 ミックスジュースをしっかり飲み干してしまったバム。なんだか……よっぽど喉が渇いてたんだ。

「あの……、リヴァイア!!」

 すかさず、おもむろにバムが私を見上げて、パンツの太もものところをしっかりと握って、そう言って。

「…………あのバム? 落ち着こうね!! あのさ、私に何があったのかさ、教えてくれないかな?」

 私は、ポケットからメモとペンを取り出して……、

「いつもね、私はこのメモに、このペンを使ってね」

 メモをしているんだから……。

「何かあったんだね、バム??」

 私はそう直感。私も聖サクランボで長く働いてきたんだ。そうだよ。……だから、しっかりしなければ!!

「……あの、リヴァイア?」


 ほいっ来た!!


「何かな? バム? 落ち着いて先生に教えてくれないかな??」

「リヴァイア!! 」

 と叫んだバム。

「えっ? なに?? なっ??」

 私、思わず怯んでしまって……。


「リヴァイア・レ・クリスタリア……」

 バムが私の名前をフルネーム? とかく真剣な表情で、でも、口元にはまだジュースの液がついていて……、ああ、私はそれを、すぐに自分のポッケの中のハンカチで拭いてあげなければって……思って、まずは。

「……はい!!」

 大きく笑顔で返事。

 すぐに、バムの口元をハンカチでふきふきして。それから

「バム君、何かな? リヴァイアに教えてくれる?」

 と、ニッコリしながら聞いたのでした。


「リヴァイア……。今日はリヴァイアのお誕生日だからね。リヴァイアのお誕生日をお祝いするために、フレカお姉ちゃんがキカクして、クアルもだけれど、それグッドアイデアって笑ってね」

「……うん?」

 なんの話なのだ? これ??

「そんでもって、ネプティーに、お姉ちゃん達が相談してね、エスナータ修道士も笑って……」


 相談? 笑って??


「……だからね」

「は、はいはい……」


「今日は、リヴァイアのお誕生日だからね。みんなでお祝いしようとキカクしてね。みんなでリヴァイアを食堂に来てもらって、みんなで、リヴァイアのお誕生日をハッピーバースデーしようって、フレカお姉ちゃんがキカクしてくれて…………」


(……くれて? なに??)


「そんで……、ボクは、リヴァイアをね、食堂まで、エスコートする約なんだよ。どう、ボク、しっかりとエスコートできたかな?」

 バムはニッコリした。


 …………………………なに、この展開???


「あとね! 後ね!!」

 パンツにしっかりしがみついているバム、見上げ続けていて、私にそう言って。

「うんっ」

 私、取り敢えず大きく頷いた。

「いつもね、お世話になっているからってね……。フレカお姉ちゃん、プレゼントで…………」

「プレゼント??」

「そう! ……フレカお姉ちゃんはさ、お悩み相談券を。クアルは栞をプレゼントするんだって」

「……お悩み相談券? ……栞??」


「んで、ボクは…………」

「は、はいな!!」


「ボクはね、リヴァイアにお歌をプレゼントするからね」

 えっへん……な満足げな表情を、私に見せてくれたバムだった。

「どう、聖サクランボのさぷらいずは?」


「サプライズ……?」

「うん、みんなで、リヴァイアのお誕生日をお祝いするサプライズだよ!」


 なに? なにこれ??



 ……………あ、あれだ!


 私見たことがある。

 アルテクロスの劇場の寸劇で。――私は思い出した。

 とある企画で、ターゲットをドッキリで驚かせようと見せて、実はその控室で『今回のどっきり企画の台本』があって、それをうっかり見てしまって。って、


 あ、サプライズって、


 バム? 私は、心の中でこう叫んだのでした。




『それ、言っちゃだめなやつじゃん!! 聞いちゃあ、これ、あかんやつやん!!!』





続く


この物語は、フィクションです。

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