第5話

 昔から。


 いや。


 たぶん生まれたときから。


 しにたかった。


 いなくなりたい。存在を、消してしまいたい。


 とにかく、それだけを考えて生きてきた。


 誰かに連れられて行った病院で、紙とペンを渡されて。なんでもいいから、描いてくださいといわれたのが、始まりだった。絵を描いて、物語を作るのが、楽しくて。


 たくさん、描いた。


 売れる作品だったらしくて、お金に困ることはなくなった。


 でも、しにたいのは、変わらなかった。


 家族がいないから。

 作品のなかに生きすぎているから。

 子供の頃の記憶を、喪失しているから。


 しにたいのは、そういう理由なのかなと、自分でなんとなく思う。


 彼に出会って。劇団を作って。みんなと暮らして。


 それでも。


 しにたいのは、変わらない。


 夕陽で、気が気付いた。

 知らない場所。息が切れた、自分。ずっと走っていたらしい。


「どこだろう、ここ」


 どこでも、いいや。


 しねるなら。


 どこでも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る