第25話 勇者タツヒコの冒険 ❽ 大怪獣決戦の裏側 ③

(リリーside)



「で…ヨウジあんたは?」


… 。


… 。



「昨日、ひったくり集団を壊滅させて、衛兵隊の詰所(交番)の前に転がしといた。

ついでに盗まれた荷物も、ちゃんと取り返しといたぜ!」


「良い事したなヨウジ!」


「やっぱり勇者はそうでなくっちゃなww」



もう限界……

何でコイツらこんなに、お馬鹿なのよ!?



「あんた達ね!国外追放処分受けたのに、どうして平気で何時迄も私の家に潜伏してるのよ!?

それにそんなの投稿したり、目立つ行動して見つかったら捕まって牢屋行きになるって考えなかったの!?」


… 。


… 。



「「「その時はその時で、何とかなるんじゃねぇの?」」」


「なる訳ないでしょーー!このお馬鹿トリオが!!」



何でこんなに能天気なのよ?

とにかく、コイツらと一緒に居たら、私まで捕まっちゃうじゃないの!!

何とか隙を突いて、私だけでも逃げないと!



って、何でタツヒコ私の手を掴んでるのよ!?



「なぁ…そろそろ撮影に行こうぜ!

ヨウジ先導を頼む!!」


「任せとけ!今なら北側は手薄だから、出るならそっち側だ。」



ちょっとーー!私の話し聞いてた?

何で私まで【HMT】とやらの、撮影に行く事になってるの?

何なのよ?稀人って頭おかしいんじゃない?



(おかしいのはたぶん、コイツらだけですww)



「私、まだ仕事が!」


「「「大丈夫だって♪怒られたら一緒に謝ってやるからww」」」



あんた達【国外追放処分】受けた自覚無いの!?

とにかくコイツらから逃げないと!



と思っているのに、タツヒコが手を離してくれない……

振り解こうとしても、ビクともしない。

コイツら馬鹿なのに、なんで無駄にレベルが高いのよ?



やっぱり本物の稀人だからかしら?



警備隊の目を掻い潜りながら小一時間、王都の北門付近に潜伏……

とっくに冒険者ギルドに戻らなきゃいけない時間は過ぎている。



どうせ出て行くなら、もっと早く出て行きなさいよ!

そして私を巻き込むな!



「どうだ?ヨウジいけそうか?」



というタツヒコの質問に斥候のヨウジが、真剣な表情で答えた。



「何時もみたいに、気づかれずに一部解除って無理みたいだな。」



流石に稀人の斥候でも、【聖人】の張った結界を破るのは無理みたいね。



… 。


… 。



あら?今、なんか聞き捨てならない事を口走らなかった?



「ちょっとヨウジ?あんた今、妙な事言わなかった?

『何時もみたいに、気づかれずに一部解除』ってどういう事?」


「ああ…罠解除のスキルのレベルが上がって結界の解除も出来る様になったんだ。」



と何でもない様にヨウジは答えているけど、普通はそんな事出来ないから!



「やっぱ無理だわ。流石は王国一の【聖人】様、無理にやったら一部どころか全体的に結界が崩壊するな 。

絶対気づかれるし…… 」


「参ったな…何か他に方法無いのか?」


「ちょっとタツヒコ!いつまでも私の手を掴んでるの?

いい加減離にしてよ!」



しかし私の意見を無視して、タツヒコ達は三人でいろんな方法を試している。

その間もタツヒコは私の手を離そうとしない。



だいたいなんであんた達、そんな凄いスキルを持ってるのに明後日の方向にそれを使ってるの!?



それから暫くして私達は北門に近づいて来る、二つの明かりに気づいた。

アレって一部の高位貴族達が、数年前から乗り始めた魔道具の乗り物、魔道車よね?



こんな時間に来たって事は、やっぱり誰かを逃すつもり?

それともこんな危険な時に、態々誰か戻って来たのかしら?



暫く様子を見ていると、何と防御結界の一部に穴が開いて魔道車が中に入って来た。



「「「今だ!」」」



一瞬の隙を突いて、タツヒコ達は私を連れて猛スピードで魔道車の横を通り、結界の穴を潜り抜けて王都の外へと脱出した。



「えっちょっと!」


「しー!静かにしないと、気付かれるだろ。」


「ゔっ!」



仕方ないわ……

ここは暫く大人しくしといて、隙を突いて逃げるしかない。

良かった…今まで貯め込んでたお金、マジックバックに入れといて。



貯金しといた神殿やギルドの給料は惜しいけど、それ以外に稀人を騙して稼いだお金は手元に置いといたのよ。



生活用品とかはあんまり入れて無いけど、お金があれば何とかなる…はず……



とりあえず王都から一番近い森に逃げ込み、タツヒコ達は朝まで休む事にした。



「じゃあちょうど四人居るから、見張りは二人づつで…… 」


「最初はオレとリリーで良いか?

四時間経ったらマサユキとヨウジに交代な!」



また勝手に決めてる……

仕方なく焚き火を囲んで、タツヒコと見張りをする事にした。



「そう言えば、さっきの魔道車誰が乗ってたのかしら?」



とタツヒコ達に聞いてみると、どうやら乗っていた人物はタツヒコと顔見知りだったみたい。



「ああ…乗っていたのはオレがよく行ってる猫カフェのオーナーとその飼い猫と専属メイドだ。

運転してた男は知らんけど。」



は?王都の猫カフェのオーナー?

王都で猫カフェを経営してるのってボルネオール侯爵家よね?



そのオーナーの飼い猫って言ったら【勇者シルバー】?

強いとは聞いてるけど、流石に猫じゃあの巨大なドラゴンに勝てないんじゃ……



となると、やっぱり王都から脱出したのは正解かもしれないわね。

出来るだけ遠くに逃げないと……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る