第15話 勇者タツヒコの冒険 ❹

冒険者ギルドを追い出されたオレ達は、その足でこの国最大の神殿に向かった。



やっぱりこれから国外に出るにあたって、【勇者】として【聖女】をパーティーメンバーに入れるのは必須だろう!



今回は仕事を失敗してしまったが、相手が可愛い【聖女】なら話しは別だ。



とりあえずギルドに預けていたお金を払い戻し、旅に備える事にした。

オレ達が払い戻しに行くと、いつもは愛想の良い受付嬢が物凄い顔で、オレ達を見ている。



きっとオレ達の事を権力者から、守りきれなかった事を、悔やんでいるんだろう……



旅の準備の為に商店でいろいろ買い物をした。

高い…今までの二割増しだ!



中には『お前達に売れる物は無い!』と言って販売を拒否する店もあった。

特に表通りの店は酷い。



表向きは権力者に従わないといけないから、仕方ないか。

オレ達は裏通りにある知り合いの店に向かったが、何故か何処も対応はほとんど同じだった。



「お前ら馬鹿だろ?まさかセイマ殿下の事を知らないなんてな…… 」



なんとか頼み込んで、店に入れてくれたのは以前助けた事がある、怪しい酒場のマスターだった。



「お前らには借りがあるからな……

今日は泊めてやるが、出る時は裏から見つからない様に頼むぜ。」



迷惑そうな顔をしながら、一晩店に泊めてくれるという……

泊めてくれた部屋は普段は倉庫として使っている場所だから、少し狭いが仕方ない。

足りない品物も多少手数料を取られたが、用意してもらえた。



すまないマスター。



翌日の早朝…オレ達は裏口からこっそりと店から出て、神殿へと向かった。

今度こそ【聖女】をパーティーメンバーにする為に!



まだ一般の信者が来ていない時間、何とかヨウジのスキルで神殿に忍び込み、ある【治療師】の女を訪ねた。



「ちょっと!?あんた達何でまだ王都にいるのよ?」


「バカ!大声出すなよリリー!!」



【治療師】の女…リリーはオレ達よりずっと前に、この世界に来たハーフエルフの転生者だ。



この世界の先輩として、【稀人研修】以外でもいろいろな事を教えてくれた。

昨日、三人で話した結果…やはり【聖女】の事は神殿に勤めている【治療師】で自分達の師匠でもあるリリーに聞いた方が良いんじゃないかと。



「見つかるとまずいし、とりあえず向こうに…… 」



顔を真っ青にさせたリリーは慌ててオレ達を、空き部屋に連れて行った。

部屋はあまり使われていないらしく、埃っぽい。



「頼みがある!リリーの伝でオレ達と一緒に、パーティーを組んでくれる【聖女】を紹介してくれ!」



オレ達が頼れるのはもう彼女しかいない!

神殿に勤めていて、更に冒険者ギルドで講義や指導が出来るのだから、さぞかし神殿内で権力を持っているに違いない!



------------------


実は片親が他国の稀人で本当は転生者ではない、リリーに多大な期待を寄せる勇者タツヒコ一行。



ところでユイナーダ王国、稀人が現れる率がもの凄く多い訳ではない。

年間に数人いるかいないかだ……



数年間現れない事もある。

なので冒険者ギルドは【自称転生者】で神殿から派遣されているハーフエルフのリリーが適任と判断して丸投げ。



任されたリリーは最初の頃は先代の使っていた資料を使っていたのだが、生徒である稀人達のウケが悪く、転生者らしくないと言われ為、実家にあった親の残したラノベ資料を元に研修の講義を始めた。



するとたちまち稀人達からのウケも良くなり、リリーは偽転生者である事がばれずに済んだ。



以来、彼女はそのスタイルで【稀人研修】を続け、多くの稀人達の師匠として振る舞っていた。



彼女の講義に賛同する者のほとんどは前の世界でも【チュウニビョウ】だった若い世代…特に大柄の稀人が多い。



しかし、中には彼女の講義を鵜呑みにせず、後にきちんと現地民による正しい知識の講習を受けた者もいる。



生産職希望者は師匠に付いて仕事を覚える為、彼等に常識を教えられるし、常識的な者はまず鵜呑みにしない話しだ。



本当に成功している稀人はそういう者達がほとんどだ。

特に小柄な方の稀人達は独特な思想を持ち、まず引っかからない。



体力的に冒険者になる者が少なく、なっても特別なスキルを持っている者のみ、というのも大きいだろう。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る