k01-24 黒い獣

 現場に到着するのに5分とかからなかった。


 先頭を行くトレアさんがさっと右手を上げる。

「その場で静止」の合図だ。


 続いて2本指で前方を指す。

「警戒しつつ前方を確認」の合図。


 姿勢を低くしたまま藪の中から前方を確認する……。



 居た!!


 黒色の獣型マモノ!


 全長3メートルはあるだろうか。


 爪も鬣も尻尾の先まで全て黒一色。


 大きく開かれた口の中に見える牙だけが、唯一真っ白に輝きその鋭さを強調している。


 ゴブリンやスライムとは訳が違う……見るからにヤバそうな奴ね。



 そしてその牙が向けられる先には……仰向きで地面にねじ伏せられた男子生徒!


 防御用の魔兵器でシールドを張り、何とか耐えている。


 巨体で障壁ごと押さえつけられ逃げる事が出来ない。

 繰り返し襲いくる牙と爪による猛攻をただ耐え凌ぐのみだ。


 攻撃を受ける度、音を立て光の障壁が欠け、破片が宙に消える。


 あの様子じゃそう長くは持たないわね……!!



 脇に目をやると、近くの木の根本に別の女子生徒が1人。


 腕章からして彼女がグレード13の先輩ね。


 右手の手首を抑えうずくまり震えている。

 地面には夥しい血だまりが……。


「ミリア……!!」

 トレアさんが噛み殺したように呟く。



 そこから少し離れた位置には、地面に倒れる女子生徒がもう1人。


 脇腹から出血し周囲の地面を赤く染めている。

 こちらの生徒は既に意識が無いのかピクリとも動かない。



 これは想像してたよりかなり不味い状況ね……。


 嫌な汗が額を伝う。


 トレアさんが手招きで集合の合図を送る。


 集まった私達に小声で告げる。



「あれはブラックウルフ。

 獣系の中級マモノだ」


「授業で習いました……。確か素早い身のこなしと爪による斬撃が危険だと」


「その通り。

 非常に俊敏なため、ヒットアンドアウェイが通じない。

 実力差がもろに出る嫌な相手だ」


 トレアさんも同じく額に汗を湛えている。


「けれど勝算はある。攻撃と素早さは確かに特出しているが、防御はそれ程でもない。

 奇襲で一気にかたをつければどうにかなるはずだ」


 そう言って、黙って話を聞く私達を順に見つめる。


「勿論、絶対に安全とは言えない。これは僕の我儘だ……。無理に付き合う必要も全く無い。

 けれども、もし……もしも叶うなら、ミリアを……僕の大切な人を助けるのに手を貸して貰えないか」


 いつも冷静なトレアさんが泣きそうな目で訴える。


 そうか、あの先輩トレアさんの……。


「勿論です! 僕は行きます!」


 カーティスがいの一番に快諾する。


「私も!」

「うちも!」


 襲われているのが誰であれ、助けられるなら助けるつもりでここまで来たんだから当然断る理由なんてない。


「みんな……ありがとう! ……手短に作戦を!

 僕とカーティスくんが奇襲をかけ近距離から連携攻撃を仕掛ける。

 シェンナさんとエーリエさんはタイミングを合わせて遠距離から支援を!

 素早いとは言え、落ち着いて狙えば君達の腕なら難なく当てられるはず!」


「了解!」


 3人揃って頷く。


「それと、万一に備え最悪の場合を想定した作戦も伝えておく――」

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