k01-06 青空教室
時間は正午少し前。
ジンとアイネは街の外にある小高い丘の上に居た。
この辺り一帯は野生動物保護区とされており、普段は人も立ち入らない。
草花は咲き誇り小動物が駆け回り、鳥たちがさえずる。
街の中では見る事の出来ない手付かずの自然がそのままが残っている。
そんな喉かな風景の中を、方に鞄を掛けたジンが悠々と歩いていく。
「いい景色じゃないか!たまには街の外も悪くないだろ?」
そう言って、手に持った水筒の水を飲み爽やかな汗を流しながらジンが振り返る。
「び、びっくりしましたよ! いきなり…街の外に行くなんて…言い出すんですから」
「仕方ないだろ。街中で魔兵器の演習する訳にもいかねぇし」
「と、ところで、な……何で、自分だけ、そんなに軽装なんですか!? この荷物、見た目以上に……重いんですけど……!!」
ジンの後ろを歩くアイネの背中には、自身の半分程の大きさはありそうな巨大な荷物が背負われている。
今にも荷物に押しつぶされそうに、ヨロヨロと歩いている。
「そりゃ重いだろ。ディシプリン・システムの中継器と、魔兵器、魔鉱石その他諸々だ」
「……え? えぇ!? これ中身中継器なんですか!?」
驚き、背負ったリュックをドカッと地面に降ろす。
「おい、教務課に頼み込んで借りたんだ。壊すなよ」
呑気な様子のジンに構わず、降ろした荷物の蓋を開け中を覗く。
中には金属で出来た大きな円柱型の機材が1つと、小銃型の魔兵器が1つ、そして隙間を埋めるように大量の魔鉱石がズッシリと詰まっていた。
「ほ、本当に中継器ですね……どうりで重いと思いました……。しかも設置型のやつ。これ普通2,3人で運ぶやつですよね?
あぁ……中身見たら今まで何で持ててたのか不思議になってきました。もう絶対持ち上がりません」
アイネはそのままへたり込む
「文句言うな。最新のフロート型の奴は在庫少ないからソレしかダメだって言うし。
っても、実践で使うような本格的な中継器に比べたら小型な方だぞ。簡易的な練習機だ」
ジンもその辺にあった岩に腰掛け、鞄から水筒を取り出しアイネに投げ渡す。
それを受け取り無言で飲み始めるアイネ。
「そう言えば、お前。中継器が分かるってことはディシプリン・システムは知ってるんだな」
「――ちょっと、バカにしないでくださいよ!」
がぶ飲みしていた水筒から口を離しアイネが反論する
「初等グレードでも最初の頃に習いましたよ! 美味しそうな名前だったからしっかり覚えました!」
自慢げなアイネ
「……あぁ、プリンか。俺はどっちかってとゼリー派だ」
「あ、そうなんですか? 夏はフルーツゼリーも良いですよね! 学食のピーチゼリー食べた事ありますか!?」
「いや、300コールもするから食べた事無いわー」
「あれ、すっごく美味しいんですよ! 桃味のゼリーの中に、なんと白桃の身が丸々半分入ってるんです!
それで、隠し味にプラムの果汁も入ってるとかで、甘酸っぱさが絶妙なバランスなんですよ! まぁ、高いんで私も滅多に買えないんですけど」
「へぇ。今度給料出たら食べてみるわ……って、お前食い物の事になるとよく喋るな」
「えへへ……食べるの好きなんです」
「そうか、良い事だ。で……ゼリーの話はさておき、ディシプリン・システムの説明してみ? 本当に分かってんのか?」
「あ、ごめんなさい。話逸れちゃいましたね」
そう言ってアイネは蓋をめくったままになっていた荷物を解いて、中の機材を眺めながら説明する
「えっとですね……まず、魔兵器というのは平常ではロックがかかった状態になっています。いくら弾丸をセットして引き金を引いても、それだけでは撃てません」
「そう、その通り」
「全ての魔兵器は"ディシプリン・システム"への接続が必要で、システムからの使用許諾を受信している状態で初めて使用可能になるんです」
「正解。じゃ、そこの中継器の役割は?」
「えっとですね、システムの管理が届く範囲はサーバーと呼ばれるシステム母体の場所から最大で半径数十キロまでです。そのエリアの外では魔兵器が使えないので、エリアを拡張するための機材が中継機です」
「もっと具体的に言うと?」
「えっと……中継機に搭載されている受信機は魔兵器に搭載されている小型の物よりも感度が高くてサーバーのカバーエリアの少し外でもシステムに接続出来るんです。
だから、エリアの少し外に設置してシグナルを受信、そしてそのシグナルの増幅させて再発信する事で一時的にエリアを拡張できる……じゃなかったですか」
ちょっと不安そうな表情をジンに向ける
「完璧だ! ちなみに、ウィステリアにあるサーバーはテイルの物と、民間用、公機関用とで3つだったよな?」
「はい! ちなみにウィステリア・テイルのサーバーはかなり大型なのでそれ一台で街中全域をカバーしています。処理容量にも余裕があるので機能一部を民間にも貸し出ししてたはずですよ」
「はー、ホント金持ちだこと」
「ちなみに……ひとつ質問しても良いですか?」
遠慮がちに手を上げるアイネ
「おう? 何でもどうぞ」
「前から思ってたんですけれど……中継機を世界中に建てまくればエリアなんて気にしなくて良くなるのに、どうしてやらないんですか? 費用的な問題ですかね……」
「費用面やメンテナンスの問題もあるが、そもそも国際条約で決められてんだよ。システムの常時カバーエリアを拡張して良いのは街中全域までって」
「へー、そうなんですね」
「先の大戦……魔兵器を使った例の大戦争後に出来た条約だな。この条約のお陰で今は魔兵器を使っての他国へ攻め込む事は難しい。自国から延々と中継器を繋げば出来ない事も無いが、まぁ現実的じゃないわな」
「なるほど、勉強になりました」
「……ちなみに、このへんも中等グレードで習うはずなんだが……」
そう言って顔をしかめるジン
「え、え? あははは、そ、そう言えば、これ知ってます? ディシプリンというのは"共通理解"とか"規律"ていう意味なんですよ。システムを介する事で味方の魔兵器の状況確認の把握や、敵味方識別が可能になるからですね」
「知っとるわ!」
「さすがです!」
そう言ってアイネが笑顔で軽く手を叩く
自慢げに笑うアイネに呆れ顔のジン
そしてぼそりと呟く
「"懲戒"、"懲罰"……もだな」
「え、何か言いました?」
「いや、何でもない! そこまで知ってれば十分だ!」
そう言ってアイネの荷物から小銃型の魔兵器を取り出す
「じゃ、さっそく中継器立ち上げて1発撃ってみろ。この辺なら周囲に何も無いし、あのデカい湖に向けて撃てば誰の迷惑にもならんだろ」
「あぁ、それでわざわざこんな街の外まで来たんですね」
「まぁな。あんな狭ッ苦しい室内でやるよりもよっぽど景気いいだろ。ここまで来るのも丁度良い運動になったし」
「私は良い運動どころじゃないですよ! 明日絶対筋肉痛です」
文句を言いながらも、荷物の中から中継器を取り出し平らな地面にセットするアイネ
金属製の蓋を回して開ける。中には透明な液体が入っていた。
「確かこの液体の中に燃料になる魔鉱石を入れるんですよね?」
「そうだ。魔鉱石のエネルギーを効率よく伝えるための媒体液だな。溢さないように気を付けろよ」
「任せてください!」
そう言って、荷物の中から赤い魔鉱石を1つ取り出す。
そして、媒体液にそっと沈める。
「OKだ。そしたら蓋閉めてスイッチ入れろ」
「はい!」
開けた時と逆の手順で蓋を閉め、ロックを掛ける。
そして、側面に付いたスイッチを……ON!
僅かな機械音を立て中継器が起動を始める。
円柱の中頃は透明な素材で出来ており内部の様子が伺える。
媒体液に浮かんだ魔鉱石が淡い光を放っているのが見える。
透明な素材はディスプレイの役割も果たしており、起動中を現す『During startup……』の表示が淡く点滅を繰り返す。
やがて文字が消え、代わりに現れたプログレスバーが進捗度合いを表示する。
そして、数秒の後起動が完了した。
ディスプレイには中継器の状態が表示されている。
『TerminalID:20537/OnLine>SignalStrength:8/Battery:100%/ConnectingWeapons:0』
「よし!シグナルも問題ないな。そんじゃ魔兵器の方起動させろ」
「了解です!」
アイネは荷物から魔兵器を取り出と、小走りで池の畔まで離れる
「この辺りでいいですか!?」
そう言って手を振る
「大丈夫だけど、マガジン入ってないぞ」
無言で銃を確認するアイネ
「あ……」
そのまま黙って小走りで戻ってくる
仕方ないのでマガジンを投げ渡すジン
が、キャッチに失敗しておでこで受け、うずくまるアイネ
「あ、すまん」
「だ、大丈夫です」
おでこをさすりながら銃にマガジンを装填する
そして、銃身の下部に取付け着けられた通信用装置のスイッチを入れる
側面にある銃の通信状態を示すインジケーターが赤から緑に変る
「準備できました!」
「オッケー! 弾は.25口径スモールファイア弾だ。反動も小さいから気張らずとにかく真っすぐ撃て」
「分かりました! いきます!」
アイネが銃を構える。真っすぐ湖の上を狙い澄まし引き金を引く!
……が、弾は出ない。
「あ、あれ?」
「ん?セーフティー外したか?」
「もちろんです」
そう言って手に持った銃を確認する。
「あ……あの、インジゲーターが黄色になってるんですけど」
「ん??黄色?」
そう言って、ジンは中継器を確認する。
ディスプレイを確認すると、
『TerminalID:20537/OnLine>SignalStrength:7/Battery:99%/ConnectingWeapons:1』
ディスプレイはタッチパネルになっており、2,3度メニューを選ぶと接続されている魔兵器のIDが表示できる。
「その銃、ID:WTHG0100143だよな?」
アイネが銃の刻印を確認する
「えっと……間違いないです」
続けてメニューを確認するジン
『ID:WTHG0100143>not allow』
「許可無し……ね」
通信端末を取り出し誰かと話し出す
「……あ、すいません。ジン・ファミリアのジンです。魔兵器のライセンス申請についてなんですけど。……あ、はい、そうです。えー、WTHG0100143。……あ、はい。はい。……あ、そうですか。
いえ、いいです。すいませんでした」
そう言って通信を切る
近くまで戻って来たアイネが不安そうな顔で尋ねる
「あの……もしかして」
「あぁ。そんな申請は受けてないってさ」
「あ……。またですかね」
「だろうな。ったく、どんだけ暇なんだよあのジジイ!?」
そう言って天を仰ぐジン
「ど、どうしましょう」
「しゃーない、せっかくいい天気なんだし飯でも食いながら考えるか」
そう言って、ジンは自分の荷物の中から学食のサンドイッチを2つ取り出す。
1つをアイネに手渡し、近くにあった岩に腰掛け2人揃って頬張るのだった。
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