第6話 シェラとの会話

「ここで良いか」


 選んだのはギルド近くの喫茶店だった。


「いきなりだが本題に入ってもらっても良いか?」

「は、はい!」


 喫茶店の中に入り席に着くと早速話を始める。話が始まる途端、シェラの表情が一気に真剣になった。


「まず私に提供してもらう材料です。これは主に二つあります」

「二つか」


 シェラは指を二つ立てて示した。

 二つって言うのは珍しいな。魔石だけの場合しか聞いた事がないからな。


「一つ目は魔物の魔石です」

「ああ。一番基本のものだな」

「そうですね。何を作るのにも魔石がないと始まりませんから」

「ではもう一つは?」

「二つ目はダンジョンに生えている植物です」

「植物か……。しかし、ダンジョン内の植物は使い物にならないと聞いた事があるが」


 一度ダンジョン内で採取した植物を行きつけの鍛冶屋に持って行った事があった。魔力を豊富に含んでいたため、売れるかもと思ったからだ。


 しかし結果は売れなかった。


 魔力量は確かに多いが武器や道具の材料にしようとすると、その魔力量に耐えきれず一緒に使う魔石が壊れてしまうらしい。

 魔石が壊れてしまうと完成しない。そのため意味がないのだと。


「はい。確かにそう言われています。でもそれを上手く扱うことが出来れば、最強のアイテムを作ることができると思うんです」


 シェラはそう言うがはっきり言って難しいだろう。


「何か策でもあるのか?」

「一つだけ考えていることがあります」

「それは?」

「魔石の魔力抵抗力を高めるんです」

「なるほど……」


 魔力抵抗力とは、簡単に言えば魔法の耐性のようなものだ。抵抗力が低ければ魔法に弱く、逆に高ければ魔法に強い。

 武具や魔物も例外ではないため、攻略者はみんな知っている情報だ。

 そんな事なら他の人が先に思いついていてもおかしくはない。


「でも、誰もやってないなら相当難しいのだろう?」

「まぁ……そうですね」


 シェラは少し気弱になって頷く。


「それでも絶対に成功しない訳じゃないと思うんです。それならやってみる価値は十二分にあると思うんです」


 シェラは笑顔でそう言った。その笑顔は太陽のように晴れやかで、その瞬間だけは子供っぽいシェラも頼もしく見えた。


「分かった。シェラにかけてみるよ」


 シェラは将来的に凄い事をやってくれそうな気がする。なんとなく俺の勘がそう告げている。


「ほ、本当ですか⁉︎」

「ああ。その代わりその実験が成功したら、そのアイテムを最初の買い手にならせてもらう。それでも良いか?」


 普通にそのアイテムは気になるし使ってみたい。そんな好奇心が勝ってしまったのだ。


「も、もちろんです! 沢山サービスさせて頂きます!」

「それはありがたいな」


 シェラは驚いたように立ち上がって言葉を発していた。


「私、初めてです。こんな事を話して私を信じてくれた人なんて」

「そうなのか」


 食いつきそうな人は居そうだけどな。そんなに胡散臭い話でもないだろうし。


「はい……。初めて認めてくれた人です。しかもそれが憧れだったアラン様だから……」


 嬉しさもありながらも、今までの悔しさが上り登ってきたのだろう。勝手ながらにそんな感じがする。


「あ、あれ? おかしいな……」


 シェラの目から大粒の涙が流れていた。


「す、すみません!」

「いや、いいさ。今はいっぱい泣いて喜んだら良い」


 すぐに目を擦って涙を止めようとするシェラに言葉を一言かける。


「は……い」


 そしてシェラが泣き止むまで、俺は見守り続けた。




***


「それでは今日はこれで」

「ああ。これからよろしく頼む」


 シェラが泣き止んだ後、俺たちは一旦別れることにした。

 取り敢えずの話はついただろうし、大丈夫だろうと判断したのだ。

 シェラは魔力抵抗力の研究だけでなく、普通の錬金もしてくれるとのことなのでこれからちょくちょくはアイテムをもらったりは出来るだろう。


「後、これ私の住所です。何か面白い魔石や植物が見つかったら是非きてくださいね」

「ああ。分かった。じゃあ俺も今住んでる宿の名前を教えておくよ」


 俺たちは住所の紙を渡し合った。まぁ契約を結んだのだから当然と言えば当然だろう。


「それじゃあアラン様。今回は本当にありがとうございました」

「こちらこそありがとな」


 シェラは最後に深々と頭を下げてお礼を言ってきた。

 シェラはそのまま俺に手を振りながら、帰っていった。


(あれが、最初にオドオドしていた女の子とは思えないな)


 そんな事をふと思った。——その瞬間、シェラはおじいさんとぶつかっていた。


 何を言っているかはわからないが、少し俯きながらペコペコと頭を下げているのを見て意外と変わらないのかもな、とそんな感じがした。

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