第17話 とある少年の記録


 ——最終の更新、4年前の記録です。再生しますか。


 ————。


 こちら、J-k36-489区画担当ポーカー。


 地点n282……街の外れにある雑木林にて、男児を発見。


 所持品から男児の名は“藤川 るい”。人間の尺度で言えば中学1年生と推測される。


 うなされているものの目立った外傷は見られず、命に別状はない。


 従って、規約1条に基づき直ちに街へ送り返す。


 以上————。




「はあああああ」


 那々糸と結実の思い出の"世界"。

 ポツリと佇む家屋の屋根に、赤段なぎは腰を下ろす。幸せが逃げてしまいそうなほどの大きなため息とともに、白い息が宙を踊る。


「藤川るい、かあ。あいつなんで来たんだよおおお」


 攫うはずがなかった。

 この空間ですやすや眠っている所を、偶然発見したのだ。

 下手に手を出せば羽衣原ゆいが黙っている訳がない。長年の付き合いで知り得た、紛れもない事実だ。

 現にさっき、かつて無いほどの鞭打ちを食らった。


「マジで殺す気だったよな、ゆいのヤツ……」


 獲物を捉えるような鋭い眼光。思い出しては震え上がる。

 しかし冤罪だった。


「理不尽だっつーの、全く……」




「あいつの驚きっぷりを見る限り、意図して来た訳じゃなさそうだしなあ。どういうこった」


 頭を抱える。

 あまりにイレギュラーだったのだ。何百年も生きているが前例がない。


「マジでなんだったんだ……」


 怪訝な表情を浮かべ、吸ったタバコを吐くようになぎは息を吹き出した。

 凝り固まった疑りと共に。


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