把握されない感染者の存在

 把握しきれない感染者がおり、感染拡大に一役買っていると仮定した場合、各国で検査により確認されている感染者数はパンデミックの規模を実際のものより小さく見積もってしまいます。

 

 二〇二〇年二月二十五日から二十九日の間、イタリアへ旅行などで訪れた際に新型コロナウイルスに感染したと思われる新規感染者は、世界二十一ヵ国で46人確認されました[9]。これらを基に当時のイタリアの感染者数の合計を推測した論文によると、実際の感染者数は当時報告されていた1,128人を大きく上回る3,971人だったのではないかとしています[9]。

 実に感染人口の72%が検査漏れを起こしている状態となります。


 感染者の総数を把握しきれていない可能性があるのは、イタリアだけではありません。


 ある論文では、新型コロナウィルスがインフルエンザと似ていると仮定し(感染経路や症状の出方)、インフルエンザとの比率を基に、シアトルと武漢の初期の新型コロナウィルスの感染規模を推定してみました[10]。武漢では二〇一九年十二月三十日から二〇二〇年一月十二日の間の比率をインフルエンザ患者3人に対し、新型コロナウィルス感染者2人としており、シアトルでは子供では9:1であり、大人でも7:1だとしています[10]。


 これらから導き出せるのは武漢では一月十二日、シアトルでは三月九日の時点で知られられざる軽症の感染者が5,000人強いたのではないかと言うものです[10]。


 また韓国の大邱テグは二〇二〇年六月六日時点では推定感染者数をおよそ185,290人としており、当時報告されていた6,886人の約27倍の感染規模だと推測しています[11]。


 この見逃されていた感染者というのは他にもカルフォルニア州のサンタクララという都市や[12], [13]イラン[14]といった世界の様々な場所で存在するとされています。

 まだ査読されていない論文ですが、神戸にも報告されている何百倍もの隠れた感染者がいるのではないかという声もあります[15]。


 H1N1インフルエンザ同様、世界中で見逃されてきた感染者数は計算される新型コロナウィルスの致死率に影響します。 


 新型コロナウィルスのパンデミックの初期、二〇二〇年一月一日から二月十一日までのデータから推定されていた中国の致死率は、感染が検査で確認されている患者数を分母としており1.38%とされていました[4]。

 対して分母を計算で割り出した、推定の感染患者数とすると致死率は0.657%に下がりました[4]。


 この論文では年齢別にも解析しており、似たような傾向が見られました。

 八十歳以上の致死率は感染が確認された者だけでは13.4%でしたが、推定感染者数であれば7.80%となりました[4]。


 このように無症状や軽症で検査も受けていない感染者の存在を無視したまま致死率の計算に臨むと、実際よりも高い推定となります。致死率は特にウィルスの感染した際の危険度を示すことに関しては優秀な指標なので、対策を練る時や規則を決める時、参考としてよく使われます。間違った危険度の認識では、なかなか効率の良い対策を講じることはできません。


 二〇二〇年三月の時点でもWHOは報告されている致死率の3%から4%は、多くの無症状や軽症の感染者が含まれていないと認め、実際の致死率はもっと低いだろうとしています[16]。


 以前の感染症から分かっていることなのですが、より多くの感染者数が把握できるようになって、初めて正確な致死率が計算できます[3]。

 同時に致死率は低ければ低いほど、正確な致死率を割り出すにはより多くの感染者の把握が必要ということも分かっています[3]。


 ではどうすれば理想とされる分母、感染者の総数を把握できるのか。

 一般的には二つの方法があります。

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