致死率を求めよ

 怖さの指標としてよく使われる致死率ですが、計算の方法は至ってシンプルです。


 ウィルスによる死者数を、ウィルスの感染者数で割ります[3]。


 だが奴は四天王の中で最弱……

 ではなく、こちらは数式として最も簡略的なものです。

 一見単純そうな数式だからこそ、そう一筋縄でいかないのが現状です。


 死者数も感染者数も正しく理解せずに数式に落とし込めば、現実とはかけ離れた致死率が算出されます。その現象が良く見られるのが、パンデミックの初期の段階で変動する致死率であり、これには様々な要因があります。


 例えば感染者の発症から死亡まで、当たり前ですが時間が掛かります。感染した患者が発症し、重症化し、死亡、そして死因が解明され、記録されるまでに少なくとも二週間から三週間かかるとされています[4]–[6]。

 しかし新型コロナウィルスの感染者数は二〇二〇年三月のアメリカなどでは、四日以内で倍増しているという計算でした[7]。

 爆発的に感染者が増えている時期では、状況は刻一刻と変わっており、単純な割り算では致死率は実情より低くなりがちです[5]。言い方はあまり良くないですが、多くの感染者は「まだ死んでいない」のです。


 なので基本としては、新規感染者数や発症から死亡までの時差などを数式に盛り込んで計算します[5]。


 この時差がもたらす、算出される致死率の違いが見られるのが二〇二〇年二月十四日に中国河北省かほくしょうで行われた研究でして、致死率を単純な割り算で求めれば2.5%でしたが、時差を考慮し計算し直したところ18%まで上りました[5]。

 その違い、七倍。

 笑ってしまうほど違います。


 そういうこともありパンデミックの初期も初期の段階では、ただ死者数を把握されている感染者数で割るのは実際の致死率を大きく下回る数値になるので、研究する方も論文を読む方も注意が必要です[3]。


 ということで発症から死亡の日数がもたらす時差は、致死率を下げる要因となります。

 逆に致死率を実際より上げる別の要因もあります。


 新型コロナウィルスでも見られましたが、パンデミックにより死者が多く出始めたが検査数が追い付かない状況となれば、重症な患者から検査が優先される傾向にあります[3]。そうすると分母である感染者数は検査数の限界により、実際よりも少なく見積もられます。加えて重症者が重点的に検査されるため、致死率は高い推定となります。


 厄介なことにこの上回る予想は、可能検査数の上限が上がったとしても起こり得ます。


 一番考えられるのは、無症状や軽症の感染者が医者にかからず、検査されずに完治することです[5]。

 風邪や軽めのインフルエンザでは医者に行かずに自宅療養する人がほとんどではないでしょうか? 症状も似ているので、本人も新型コロナウィルスだと気付かず、検査もせずに回復し、日常に戻ることでしょう。


 他には医者に相談するも、検査まで至らず完治する可能性もあります[5]。

 まぁ、検査費用もただではありませんから、検査するメリットがあまりない場合はその方がある意味利口です。新型コロナウィルスも軽めの症状で済むことが多いので、このような手法をとっている国も多いのではないでしょうか。


 一研究者としては、検査していただき、感染者数の把握をより正確な推定にしたいという欲が働きますが。

 まぁ、それはおいといて。


 このようにパンデミックの初期段階では発症から死亡の時差と検査数の限りにより、実際よりも致死率が低く見積もられたり、逆に高い推定になったりします。

 パンデミックの初期を抜け出せれば時差を考慮した計算もできますし、検査数も増えます。

 なのでこの問題自体は時間が解決してくれます。


 「この問題」はね。

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