#12〔旅路〕

「爪撃か。」


ポツリと呟く。

衝撃的すぎるリュカの力を目の当たりにして、驚くよりも先に冷静な分析をしてしまう。


いや、驚くことはない。リュカが強いなんて今にわかったことではないのだ。ゴブリンロードを倒すことなど児戯に等しいのだ。しかしその児戯は、人類の最高到達点を悠々超えていた。


これが、これが神狩狼フェンリルなのである。


✳︎ ✳︎ ✳︎


「リュカちゃん、凄かった。」


月の明かりと〈光源〉の光が差し込む。

質素な晩御飯を食べていたとき、レナが言った。


「まぁフェンリルだからな。リュカと同等とまでは言わなくとも、せめてそれなりに強くなりたいんだがな。」


「フィルルも凄かった。豚鬼戦、圧勝だった。」

《オーク》

実はあの後、オークにも遭遇していたのだ。合計で6匹。1匹だけ上位種である豚鬼騎士オークナイトだったが、いつも通りに対処すればなんら問題はなかった。


「人間にしては、な。」


そう。俺は強い。しかしリュカと比べてしまえば、俺の強さなど地に落ちる。天空を穿つかの如きリュカの強さには、どれだけ手を伸ばしても届かないのだ。どんなに都合のいい偶然が重なったとしても、それは知れたものだ。


だからこそ、だ。鍛錬を重ね、人間の域を超えなくてはならない。超えられる保証などありはしない。ただの夢物語で終わる可能性の方が高い。それでも、1パーセントでも可能性があるならば、その一縷の望みに人生を託してみるのも悪くないと思っただけなのだ。


「そういうレナは何か夢があるのか?」


「うーん、そうね。やっぱり世界一の鍛冶師になりたい。それから物を売りながら、いろんなところを巡りたい。」


「へぇ。それはまた。」


「今回もその一環。まずは王国内だけ。」


「どこに行きたいとかあるのか?」


「海竜国に行きたいな。」


「いいね。海竜国。」


海竜国ルーシル。

王国の南に広がる海と隣接した国で、なんでも始めて竜との会話に成功した国で、海竜と共存しているらしい。竜の好物であるが海にいるためなかなか食べることの出来なかった鉱物を差し出す代わりに、海の魚を取ってくれるのだとか。海竜国に赴いた者は皆口を揃えて「飯が美味かった」と自慢してくる。本来人が潜り込めないところで取れた魚が絶品なんだとか。


「アスタリスクの後、海竜国に行ってみようか。」


「ほんと!?」


目をキラキラと輝かせたレナが予想以上の反応を見せる。


「あぁ。俺も行ってみたかったんだよ。」


理由は料理ともう1つある。それは迷宮の存在。5つある迷宮の中で唯一第一層が攻略されている、シシズ迷宮だ。20年前に攻略したバリウス・ハードラーの英雄譚は未だに吟遊詩人バードの鉄板ネタである。


「それは楽しみ。でもその前にアスタリスクね。もう遅いし寝ましょ。」


「そうだな。明日の昼までには着いておきたいな。」


「そうね。明日は早いわよ。」



「じゃあ、おやすみ。」


「おやすみ。」



穏やかな夜だった。



✳︎ ✳︎ ✳︎


翌日。


「久しぶりだな。」


数時間ほど歩き、ようやくアスタリスクに着いた。


時刻は午後1時。予定より少しばかり遅かったが、これは誤差の範囲だ。



販売の許可を得た俺たちは宿に来ていた。2人部屋でいいかと聞かれたのだが、特に問題はないのでそうしてもらった。

実家に泊まってもよかったが、仮にも今回は護衛任務だ。都市内で戦闘になることはないと思われるが、そこは気持ちの持ちようだ。


昨日充分に睡眠が取れなかったこともあり、かなり眠たくなってきた。既に今日の用事は全て済ませてあるので眠ることにさせてもらおう。


「すまんなレナ。先に寝るわ。」


それだけを告げ、俺は意識を手放した。

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