私から見える世界は、スペースが足りない。~霊感少女の高校生活~

木目カウ

プロローグ

プロローグ 今日普通の女子高生


 SNS、読者モデルの通うサロン、プチプラコスメ&コーデ、アイドル……


 きらびやかなアイテムに囲まれた華やかな青い春。そこには、些細なことでも楽しめて共感することで喜びがある。

 あぁ、これぞ青春。これぞ夢見た高校生活。


 私の高校生活もそんな眩しい生活に包まれる!そう、今日から私はjkなんだ!さぁ入学デビューに向けて立ち上がろうではないか!華やかで甘酸っぱくて時に悩む、そんな毎日が始まってゆくのだ。



・・・・・・

・・・・・・


「いやいや、見たくないものはいいから……」


 一人言を口にして大袈裟に目を反らす女の子。

 千種千歳ちぐさちとせは自らの特異体質からくる境遇に、ガッカリと項垂れるのである。


「ほんっと、みっちりもなにもない。マジでこのタイミングはやめてほしい」


 4月の風は時折に、暖かい風と花粉をプレゼントしてくる。花粉症という体質に気づいたのは中学生になってすぐの事だった、止まらない鼻水に匂いという情報は一切遮断され幾度となくチリ紙の山を築きあげていた。


 花粉症については仕方ないだろう。そこに悲観することはないのだがそうではないのだ、そこからオマケのように表れる現象が鮮明に目の前に現れていることに彼女はずっと苛まれていた。


「あー、ハハハ。いつにも増して、ぎゅうぎゅうだね」


 絞り出した皮肉のつもりの一言は、幼い頃から現れる特異体質が映し出す光景に向けられたものである。


 目の前に広がるなにも変わらない自室。わりと整理された、いわゆる女の子の部屋といった可愛らしいインテリアにまじり【今の彼女にしか見えない】光景が広がっていた。


 部屋一面に飛び交うバッタと思われる虫たちと、ライトの回りを自由に飛び交う雀やカラス。


 あ、鳩もいた……


 ベッドのうえで自由に動き回る小動物たち。


 何より一番不快なのは年頃の女の子部屋でうごめいているおじさんやおばさん、走り回る子供たち。触れもしない話かけもしないが、6畳の自室みっちりとたたずんでいるのだ。

 目が眩むような光景にゆっくりと部屋をでて、花粉症の薬を探す。子供の頃から変わらない体質を家族だけは知っているが、誰も視ることの出来ない情報にいつもの事だと笑われるのだった。


 彼女の特異体質は五感だ。五感は人間に備わった生きていく上で無くてはならない重要なモノ。天才と呼ばれる歴史的人物のように五感の1つを失ったことで超人的な感覚を身につけ、大成する事もある。補い合うバランスを助けるよう他の感覚が研ぎ澄まされる。超常的な第六感。幼少の頃よりそれは、彼女にも備えられていた。


「またいつものか?」


 面白半分に声を掛けてきたのは父である。


「ほんっと、春は起きる度だからやんなる、笑わないでよね」


 怒ったように返答する千歳に、父はニヤニヤと茶化しをいれていた。

 

 幼い頃から彼女にはいわゆる霊と呼ばれる存在がみえている。普段は全く見えないが五感の1つの機能が低下した時、特異体質は現れる。

 

 彼女から見える世界は人間には見えないモノが見える世界。そしてモノたちは日々増え続け、自由にうごめいている。地球が誕生してから何千万年も、生まれては死んでゆく生命。繰り返す命の後に、ただモノ達だけが増えてゆくのだった。



 「私から見たらミッチミチなの! いやんなるくらい!」


 茶化された事に怒りを表している様子で手足をバタバタとさせる千歳は、飲んだばかりの薬の効果が出ることをまっていた。

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