閑話

 俺は自慢じゃないが他の人よりは容姿が優れていた。それに人と喋るのも得意だったため、

友達も結構いた。今思えば浅く、広い関係だったが……。


 だけど、どうしても仲良くなれない奴がいる。そいつの名前は佐伯 海。

 いつもボーッとしていてあまり人と関わろうとしない変わった奴だ。

 話しかけても当たり障りのない事しか言わないため、次第に奴に話しかける人は減っていって、今はボッチになっている。


 話が逸れてしまったが、今の言葉を使えば、リア充というものに分類されるはずだ。

 女子にもモテて、告白された回数も少なくはなかった。


 だけど、異性に好かれるということは、同姓には嫌われるという事でもある。


 ある日俺は放課後、全てやることを済ませて帰ろうと下駄箱の扉を開けると手紙が入っていた。

 またいつものかと思ったが、どうやら違うらしい。読みづらく、汚い字で場所が指定されていた。今までこんなことは一度もなく、少し驚いたが、大体予想はつく。


 面倒くさいと思いながらも、早めに済ませておこうと、指定された場所へ向かった。

 




____________________________________________





 指定された場所は中庭で、そこには六人ほどの男子生徒がいた。靴の色から見るに一つ上の三年生だろう。


 俺は奴らの前まで行き、用件を聞く。

「あの、呼び出したのって先輩達ですか?」

 当たり障りのないように聞く。

「ああ、良く来てくれたな」

 リーダー格みたいな男がそう言った。周りはこの男に従っているのだろう。

「で、何の用件ですか?」

「そうだな、簡潔に言えば復讐といったところだな」

「復讐?」


 俺はこの人達と話したこともなければ、今初めて会ったばかりだ。

 と、今までの行動を思い出していると、相手から喋ってくれた。

「俺にはなぁ好きな人がいてよぉ。この前思いきって告白したんだよ」

「…」

「そしたら断られたんだ。けど俺もそこまで馬鹿じゃない。理由を聞いたのさ」

 なんだか嫌な予感がする。

「『二年生の澤井 陽一君が好きなの』って言って断られたよ。よりにもよって後輩に負けるなんて。そのせいで俺のプライドはぼろぼろにされたよ」


 完全なとばっちりである。もしかしたらその場しのぎの嘘かもしれないのに調べることもなく、直ぐに本人を呼ぶ時点で馬鹿だとは思うが。

「だから俺に復讐を、ということですか」

「物分かりが良いじゃねえか。サンドバッグになってもらうぜ」


 一人が殴りかかってきた。俺はそれを避け腹を殴る。

「おい、何してんだ!」

「黙って殴り続けられる奴はいないでしょう。俺も反撃させてもらう」

 何人も一斉に殴りかかってきた。俺は拳を握り、反撃することにした。




____________________________________________




 だが、相手が悪かった。一つ上ということもあって、体格で負けていた。


 何とか二人は倒したが残り四人に押し倒され、今は蹴られている。

「おらあ!調子乗んなよ後輩のくせに!」

「ぐっ!か、関係ないだろ!」

「うるせぇ!黙ってろ!」


 これだから色恋沙汰には良いことがない。

 両思いでもない限り、みんながハッピーエンドということはあり得ないのだ。

 みんながイケメンになりたいと思うように、

俺も普通の顔に生まれたかった。

 意識が遠退いてきた。体中が痛い。

 もう、げん、かい。


「よってたかって後輩をいじめて楽しい?」

「ああ?!なんだてめぇ!」

 絶対に聞くことなどないと思っていた男の声が聞こえた。

 そう、ここに来たのは佐伯 海であった。

 佐伯は俺に静かに近づき、しゃがみこんできた。


「うわ、ボロボロじゃん……」

「何しにきた。……早く帰れ」

「そいつの言う通りだ。

 今帰れば見逃してやる」

「こんな場面を見て帰るほど、俺も腐っては

 いないんでね」

「いいから話し聞けや!」


 四人の内の一人が殴りかかる。また一人やられるなと思っていたら、予想と真逆の事が起きた。

 佐伯は簡単によけて、腹を思い切り殴る。深く入ったのか、一発でダウンした。

「帰りたいから早く来てくんない?」

「な、なんだこいつ!お前ら行け!」

 リーダー格の男以外の二人が襲いかかる。

 だがそれも一瞬でやっつけてしまい、とうとう一人となってしまった。

「な、何なんだよお前!」


 最後の男が同じように殴りかかっていくが、

動揺で定まっていない。簡単にかわし、顔に拳を叩き込んだ。

「お、お前ら!行くぞ!」

 いつの間に起きていたのか、六人は直ぐに帰っていった。


「ほら、起きろ」

「あ、ああ」

 手を借り起き上がり、肩を貸してもらう。

「な、なあ佐伯」

「ん、どうした?」

「俺たちって友達ではないよな?」

「そりゃそうだろ。俺に友達はいないからな」

「だ、だよな。じゃあ何で俺を助けたんだ?」

 そう聞くと佐伯は、当たり前のように告げた。

「人助けは理屈じゃないから。俺が助けるべきだと思ったら助けるだけ。当たり前の事だろ?」

 さ、行くぞと声をかけられ、保健室まで向かう。


 そこから俺は海に構いまくって現在に至る。

 あいつは自分は主人公じゃないと言うが、少なくとも俺と葉山さんの主人公には変わらない。

 これが俺、澤井 陽一と佐伯 海の出会いであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る