第6話 ゲスモブ、清掃される

「ねぇ、どうなってんのか説明してよ」


 兵士の宿舎を出た俺と白川は、城の外壁を照らす明りの下で、肩を並べて座っている。

 アイテムボックスの容量の問題で、向かい合って座る体制が作れないからだ。


「てか、兵士を3人も殺して助け出したんだ。礼の一言ぐらいあっても良いんじゃねぇの?」

「あっ……ありがとう。マジで助かった」

「まさか、あそこまでゲスな連中だとは思わなかった」

「ねぇ、他の人は? 助けないの?」

「無理だ。今の俺には、このサイズのアイテムボックスしか維持出来ない。これ以上はかくまえない」


 さっきは俺1人だったから素早く動けたが、白川が一緒では同じような動きは出来ない。


「それに、もう手遅れだ……」

「そんな……」


 邪竜討伐に参加しないと決めたのは、女子5人に男子が2人の7人だった。

 自由に街を歩けるように市民登録を行うとか言われて、討伐組から引き離されたそうだ。


「お城の中を案内してもらったり、食事を食べさせてもらったりして、信用し始めてたのよ。それで、宿泊する部屋に案内するとか言われて……」


 連れていかれたのがさっきの宿舎で、部屋に入った途端襲われたらしい。


「なんで、お前は首輪を嵌めていなかったんだ?」

「あぁ、あれ嵌めると、マジで身動きすら出来なくさせられるみたいで、少しは暴れないと面白くないとか言って……」

「ちっ……とことんゲスだな」

「でも、首輪を嵌められていたら逃げられなかったかも」

「動けなくなっても抱えて逃げれば大丈夫だろう」

「なんか、魔道具になっていて、指令を出すと……」


 白川は、手刀で自分の首を斬り落とす動作をしてみせた。


「マジか……よし、帰れるようになったら、兵士は全員殺そう」

「えっ、日本に帰れるの?」

「今は無理。今は無理だが希望はある」

「うっそ……」


 アイテムボックスに関する俺の推理というか、これからのビジョンを話すと、白川は手を叩いて喜んだ。


「凄い! マジで天才! えっと……」

黒井善人くろいよしひと……お前、俺の名前覚えてなかっただろう」

「うっ……ごめん。マジごめん、てか黒木、影薄すぎだし……」

「黒井な、く・ろ・い……まぁいい、自分でも影が薄いのは分かってるし、だからこうして動けてもいるしな」


 下手に名指しで探されたりしたら、今後の活動に影響する恐れもある。

 この国の人間がゲス揃いだと分かった以上、存在を知られない方が良いに決まっている。


「ねぇ、なんであたしだけ助けたの?」

「決まってる、白川が必要だからだ」

「えっ……必要って?」


 白川が狭いアイテムボックスの中でも、可能な限り俺から離れようとした。

 確かに凹凸の激しいボディーをしてやがるが、俺の目的はそっちじゃない。


「あぁ、違う違う、誤解すんなよ。俺が必要としてるのは白川の魔法だ」

「えっ? あたしの魔法って……清掃だよ」

「そうだ。それって物を綺麗にする魔法だよな?」

「そう、だけど……えっ、この中を掃除しろってこと?」

「そうじゃねぇよ。綺麗にしてもらいたいのは水とか食い物だ」

「えっ? 水ぅ?」


 白川は素っ頓狂な声を上げたが、俺が求めているのは浄水器としての役割だ。


「俺達は、ひ弱な都会っ子だぞ。生水なんて飲んだら腹を壊すに決まってんだろ」

「えっ? 飲んじゃったけど……ヤバい?」

「何ともなければ平気じゃねぇの? これから気を付ければ良いだけだろ」

「そっか……そうだよね」


 結構な量を口にしたのだろうか、白川は不安そうな顔で腹を押さえている。


「てか、魔法使ってみろよ」

「えっ? 水は?」

「違ぇよ。身体だ、身体。色々気分の悪いことされてただろ?」

「あっ……」


 裸にされ、3人の兵士に舐め回されていた状況を思い出したのだろう、白川はブルっと身体を震わせた。


「ク、クリーン!」


 魔法が発動したのだろう、白川の身体が薄っすらと水色の光に包まれた。

 光が収まると、白川は目を真ん丸に見開いていた。


「これ、ヤバい。なんか、身体中の老廃物がズルっと抜けてくような感じ」

「マジか! てか、着てる服までメチャ綺麗になってねぇ?」

「わっ、ホントだ。なんか新品みたい……」

「よし、次は俺に掛けてみろ。魔法はバンバン使った方が上達するし、レベルみたいのも上がるから」

「マジで? クリーン!」

「おぉぉ……なんだこれ!」


 身体が水色の光に包まれると、服を着たまま一瞬で丸洗いされ、超高級柔軟剤仕上げの後に瞬間乾燥されたみたいだ。


「これヤバいな……てか、こんな凄い魔法を使える白川を虐待とか、あいつら馬鹿すぎるだろう」

「清掃って分かって、なんかガッカリして使ってなかったんだけど、魔法マジ半端ない!」

「てか、これなら水の浄化とか楽勝じゃね?」

「うんうん、これならいけそう」

「よし、厨房に行くぞ。水と食い物を確保しよう」

「分かった」


 白川と一緒に厨房へ向かおうとしたのだが、歩くために足を踏み出すスペースを確保するには、ピッタリと密着しないといけない。


 兵士たちに着ていた服は全部破られてしまったので、白川が着ているのは俺がパクってきたシャツとズボンだけだ。

 つまり下着は着けていなくて、色々と当たってくるのだ。


「お、俺の上着を着とけ……」

「えっ、別に寒くないよ」

「い、色々当たるんだよ……」

「えっ……スケベ」

「う、うるせぇな……ちょ、おま……」

「いいよ、感触を楽しむぐらいはサービスしてあげるよ。助けてもらったし」

「馬鹿、俺がいつまでも紳士でいると思うなよ」

「いいよ、別に黒木なら……」

「はぁぁ……黒井な、く・ろ・い!」

「ごめ……いや、わざとだって、冗談だって、冗談」

「ちっ、いくぞ……」

「てへっ……」


 くっそ、色々と歩きづれぇ……。

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