第4話 ゲスモブ、帰国への道筋を立てる

 火の魔道具を手に入れた後、城の中を歩き回って必要なものを揃えていった。

 着替え一式、良く切れそうなナイフ、肩掛け鞄、金貨、銀貨、銅貨。


 この城は小高い台地の上にあり、バルコニーから見下ろすと街が見えた。

 まだ生活基盤を築く方が先だが、いずれ観光しに行こう。


 たぶん今頃、クラスメイト達は本当に帰れるのか不安を感じているだろうが、俺は自力で日本に帰るつもりでいる。

 なぜならアイテムボックスは、いわゆる亜空間魔法だからだ。


 人気のいない所で試してみたが、ある場所でアイテムボックスに入れた物を移動した別の場所でも自由に取り出せた。

 つまりアイテムボックスは、どこへでも自由に移動が出来る器という訳だ。


 残念ながら今の時点では帰れないが、どこへでも移動出来るなら、いわゆるレベルを上げれば日本にだって帰れるはずだ。

 ということで、俺は邪竜の討伐などには参加せず、城の財産に寄生しながらレベル上げにいそしめば良いという訳だ。


 まぁ、日本に帰れるようになったら、気に入ったクラスメイトは連れて帰ってやろう。

 勿論、ムカつく野郎どもは置き去り確定だがな。


 アイテムボックスに入ったまま城の中を歩き回っていたら、いつの間にか容量が増えていた。

 感覚的には、最初の五割増しぐらいまで増えているが、それでも清掃用具入れ2つ分に満たない程度だ。


 アイテムボックスを使い続けている状態だが、歩き回った肉体的な疲労を感じる他は、魔力的な消耗感は感じない。

 意外とアイテムボックスという魔法は、魔力的な燃費が良いのかもしれない。 


 魔力的な燃費は良いとして、肉体的な燃費はガス欠寸前だ。

 厨房へ戻ってみると、食事の支度が行われいた。


 たぶん、城にいる人員全ての食事を賄うのだろう、大量の調理が行われている。

 出来上がった料理の中から、完全に火の通っている物を選んで、清潔そうに見える食器に盛り付けられたものをパクった。


 味付けは、基本的に塩とハーブの類のみのようだ。

 パンはナンのような感じで、仄かな甘みがあってなかなか美味い。


 適当に腹ごしらえも済んだので、ちょっとクラスメイト達の様子を見に行くと、なにやら人数が減っていた。

 うちのクラスは30人で、確か1人欠席していたから、俺が抜けた分も加味すると28人いなければならない。


 現在、食堂にいるのが21人だから、7人ほどがいなくなっている。

 オタデブのサイゾーがいるので、たぶんここに残っているのは邪竜討伐に協力する者達らしい。


 いなくなっている連中は、清掃とか調理、造形など直接戦闘に結びつかない魔法を与えられた者達だろう。

 初日から、いきなり別行動というの少々気になるが、アニメや漫画のパターンだと、討伐に参加しない者は去れ、もしくは自分で稼げみたいな扱いになる。


 城から追い出されたか、あるいはギルドのような所で登録などを行っているのかもしれない。

 こちらに残っている連中はこれから食事のようで、メニューを覗くと先程厨房で調理されていた物のようだ。


 ビュッフェスタイルで食いたい物を自分で盛り付けて、各々のテーブルに持ち帰って食べるようだ。

 テーブルは、二つのグループに別れていた。


 片方は、サッカー部のイケメンを中心にしたリア充グループとその他大勢。

 もう一方は、ヤンキーグループとサイゾーだ。


 サイゾーは別にイジメの対象にはなっていなかったが、ヤンキー達からは馬鹿にされていたはずだ。

 あれだけの火属性魔法を手に入れたなら、むしろ女子の多いリア充グループに混じると思ったのだが、何か思惑があるのだろう。


 ヤンキーグループの徳田となにやら話し込んでいるので、ちょっと近くに行って話を聞いてみよう。


「じゃあ何か、出来るってイメージすれば何でも出来ちまうのか?」

「魔法には属性があるみたいだから、火属性の者が水を出すみたいなことは出来ないだろうけど、火に関することならば色んなことが出来るはず……と言うか、これは無理だろうみたいな限界を設定しない方が良いと思う」

「あぁ、もう無理……とか勝手に思っちまうと出来なくなるみたいな?」

「そうそう、そういう感じ」


 サイゾーと話している徳田秀樹がヤンキーグループの中心人物で、フルコンタクト系の格闘技をやっていたらしい。

 実際に殴ったり蹴ったりしている所は見たことが無いが、180センチ近い身長でバキバキに筋肉を鍛えている。


 徳田に較べると、周りにいる連中などは、ただのイキリにしか見えない。

 その徳田さえも真面目に話に耳を傾けているのは、サイゾーが馬鹿みたいな攻撃力を見せつけたからだろう。


 そんな徳田の様子を感じ取ったのか、サイゾーが少し声のトーンを落として話し始めた。


「でね……限界を作らないってことは、常識とか、日本の法律とか、罪悪感とか……そういう面倒臭いものは考えない方が良いと思うんだよ」

「こいつ……悪党だな」


 サイゾーを悪党と言いながら、徳田はニヤリと笑みを浮かべた。


「だって、異世界だよ、魔法だよ、こんな凄い力が手に入ったんだよ。羽目を外したっていいんじゃね? てか、常識に囚われてたら駄目だと思う」

「なるほどなぁ……だから、あっちじゃなくて、俺らの所に混じったって訳だ」

「ここでは、力が無ければ相手にされない。でも力さえあれば、こんな僕だって一目置かれる存在になれる」

「いいだろう。どうせ帰れるアテはねぇんだ。楽しく遊んでやろうじゃねぇか。お前……桂木か、知恵貸せ」

「才蔵でいいよ。その代り、この世界の連中に対抗するのに力を貸してよ」


 徳田が無言で差し出した右手を握り、握手を交わしたサイゾーは顔を歪めた。

 オタデブと格闘家崩れでは、握力が違いすぎるのだろう。

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