第3話:女三人の方がいいのよねぇ

「でもさあ。つまんない男が来るくらいなら、ホント女三人の方がいいのよねぇ。楽しいし。あたし、このメンバー大好きなんだぁ」


 ほのかは他の二人を見回して、しみじみとそう言った。


「んー……まあそれは否定はしないけどね。でも会社だから、男性も女性も居て、バランスが取れるってのもあるでしょ」

「えーっ、そうかなぁ? 別に女だけの営業所でも、ちゃんと仕事ができるんだからいいじゃん。今の方が気楽で楽しいよ。ねえ、ルカたんもそう思うでしょ?」

「んー、私はどっちでもいいです」

「まあルカたんは男には興味がないしなぁ。そんなに可愛いのにもったいない」

「そんなことないですよ。なかなか心ときめく男性が現れないだけです」

「あちゃ。ここにも男を見る目が厳しい女子が、一人いましたぁー!」


 ほのかは両手の人差し指を、ルカの鼻先につんつんと突くように向ける。

 麗華はチューハイをごくりと飲んでから、ルカの顔を眺めて言った。


「そう言えばルカちゃん、高校の先輩だったっけ? 昔、すっごい好きだったって言う人」

「好き……というより、憧れですかねぇ。遠くから部活を眺めてただけだし」

「だからルカたんは、その人を超えるような人じゃないと、魅力を感じないって言ってたよねー」

「そうですね」

「やっぱ、その人って、めちゃくちゃイケメンだったんでしょー?」


 ほのかが顔をぐいぐいっとルカに寄せる。

 興味津々なようだ。


「どうでしょ。誰が見てもイケメンかどうかはわかりませんが、優しい顔で私はカッコいいと思っていましたね」

「ふーん……」

「あれ? ほのちゃん、もう興味を失ったの?」

「まあね。その人の写真を見せてもらおうかと思ったけど、誰が見てもってくらいのイケメンじゃないならいいや」

「ほのか先輩には、絶対に写真見せませんから安心してください。今後頼まれても、土下座されても、何があっても、絶対に見せません!」

「いいよ、見たいなんて思わないから」

「こらこらほのちゃん! ルカちゃんの憧れの先輩なのに、そんな言い方はないでしょ。ルカちゃん、悲しそうな顔をしてるじゃない」

「えっ? あ、ごめん、ルカたん! 冗談だから! ルカたんが憧れるくらいの先輩だから、ぜーったいに素敵な人だって思ってるから! ねっ! ねっ! 機嫌直して~!」

「大丈夫ですよほのか先輩。別に機嫌を悪くしてませんから。ほのか先輩にはほのか先輩の好み。麗華所長には麗華所長の好み。私には私の好み。それぞれあって、いいじゃないですか」

「だよねー! みんなの好みがもしも一緒だったら、一人の男を取り合いになるからヤだー! 所長やルカたんみたいな美人がライバルだったら、競争が厳しすぎる!」

「なにを言ってるんですか、ほのか先輩。ほのか先輩の方が圧倒的に美人に決まってるじゃないですか」

「え? そっかなぁー、えへへ」

「ねえ、ほのちゃん。あなたはもっと謙虚って言葉を学習した方がいいわよ」

「ふわーい」


 ほのかの気の抜けた返事に、他の二人がプププと笑う。


「それじゃ、そろそろ帰りましょうか」

「ふわーい。寝不足になったらダメだから、今日は早めに帰りましょー 帰ったらパックしよっと」

「なんの話ですか、ほのか先輩」

「だって明日赴任してくる人。もしもイケメンだったら、完璧にお肌を整えとかなきゃいけないし」

「なるほど。ほのか先輩の努力が無駄にならないことを祈念して、お開きといたしましょう」

「ホントね。ほのちゃんの努力、無駄にならないといいわね」

「二人とも本気で思ってるぅー? バカにしてなーい?」

「「いえいえ、バカになんかしてませんよぉ」」


 口を揃える二人を、ほっぺを膨らませて睨むほのか。




 この三人──

 三人三様、それぞれの想いや事情があって、そのせいでこんなに美人なのに今は誰も彼氏はいない。

 三人とも今まで数多くの男子に告白されているのだが、その多くを断ってきている。


 そして毒舌っぽいやり取りも多くあるが、それはこの三人がとても仲が良くて、お互いに信頼関係があるからこそと言える間柄なのだ。


 しかし3人とも滅法美人なのは間違いない。

 今もそんな三人を遠目で見て、ひそひそと話す他の客の男たちがいる。


「見ろよ。三人ともめっちゃ可愛いぞ」

「ホントだ」

「お前、声かけろよ」

「やだよ。ハードル高すぎ!」

「だよなぁ。絶対に相手にされないよな」


 周りのそんな視線を知ってか知らずか。


「じゃあ二人とも、気を付けて帰るのよ。特にルカちゃんはここから家まで歩きだから、気を付けてね」

「はい」

「ふわーい」


 美女三人は解散した。



 そんな美女三人だけの小さな営業所。

 そんな場所への凛太りんたの赴任は、いよいよ明日に迫っていた。

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