最弱召喚士の学園生活~失って、初めて強くなりました~

さとう

第一章

虫けら召喚士アルベロ・ラッシュアウト

 召喚士。

 ヒトは、誰もがその心に『召喚獣』を飼っている。

 召喚獣はヒトの個性であり『力』そのもの。生まれながらの『才能』と言ってもいい。

 だから、召喚獣という存在は……生まれながらにしてそのヒトの人生を決める。


 強い召喚獣、すごい力を持った召喚獣。

 つまり……ヒトの才能の化身とも呼ばれていた。

 

 だから、弱い召喚獣は必要ない。

 小さく醜い召喚獣を持つ召喚士は、侮蔑や差別の対象だ。

 例えば、兄弟はみんな強く素晴らしい召喚獣を操るのに、末の弟だけとんでもなく弱い召喚獣を持ち、ろくな能力も使えない落ちこぼれだったら。

 

 これは、とある田舎貴族、ラッシュアウト家の四男に生まれた少年の物語。

 優秀な召喚士を兄と姉に持つ少年アルベロの物語だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 とある地方の小さな町に、小さな男の赤ちゃんが生まれた。

 父は高位な召喚士。母も同じく召喚士で、先に生まれた兄や姉が若いながらも優秀な召喚士だったので、当然ながらこの赤ん坊も期待をされていた。


 父の名はアルバン。

 ラッシュアウト男爵家当主で、高名な召喚士。

 生まれたばかりの子を抱く。すでに三人の子を育てていることから手つきは慣れた物だ。


「この子はアルベロ。ラッシュアウト家の四男アルベロだ」

「まぁ、素敵な名前」


 母の名はサリー。

 サリーもまた、高名な召喚士だ。

 アルバンは、生まれたばかりの子をサリーに渡し、頭を撫でる。


「この子の心には、どんな召喚獣が眠っているのか……」

「ふふ、私とあなたの子よ? 兄や姉と同じ、素晴らしいものに違いないわ」

「そうだな。ふふ、ラッシュアウト家は安泰だな」


 だが、その期待は大きく裏切られる。


 ◇◇◇◇◇◇


 十年後───。

 一人の少年が、ラッシュアウト家の裏庭の隅で穴を掘っていた。


「よいしょ、よいしょ……モグ、いいか?」

『もぐ!』


 少年の名はアルベロ。

 彼の手には、小さな黒いモグラが乗っていた。

 名前はモグ。この子は、アルベロから生まれた『召喚獣』だ。


「モグ、ミミズがいっぱいだ。お腹いっぱいめしあがれ」

『もぐ!』


 モグは嬉しそうに地中へ。

 その様子を嬉しそうに眺め、アルベロは息を吐く。


「相変わらず、『穴を掘る』しかできないのか……」


 召喚獣は、一つだけ固有の能力を持つ。

 アルベロの召喚獣『モグ』の能力は、『穴を掘り固める』能力。だが、自分が掘った穴を硬めトンネルのようにするだけの能力で、何かに使えるということはない。

 すると───アルベロの背後に、人影が。


「よぉムシケラ。な~にやってんだぁ?」

「っ!! あ、兄上……」

「おらこっち向けよ? おい!?」

「ひっ」


 アルベロの肩を掴み、引っ張るのは……アルベロの兄フギルだ。

 フギルの傍には、岩を積み重ねたような二メートルほどの巨人が立っている。

 召喚獣『ゴーレム』という、フギルの召喚獣だ。


「ま~たゴミ召喚獣に餌くれてたのかよ? ったく、ラッシュアウト家の面汚しめ」

「も、申し訳ございません……」

「苛つくぜ……おい、謝るなら目ぇ見ろや!!」

「うっ……」


 アルベロの顔が掴まれ、フギルの顔正面を向く。


「いいか、お前はラッシュアウト家の面汚し。最低ランクの召喚士ってこと忘れんな。最低のムシケラらしく、地を這って生きていけ」

「……はい」

「ま、兄上か姉上がラッシュアウト家の当主になれば、お前の居場所なんてないだろうけどな。へへ、今のうちに貴族の暮らしを堪能しな」

「ぐっ」


 フギルはアルベロを突き飛ばした。

 馬鹿にしたように笑い、ゴーレムを引き連れて去っていった。

 地べたに座りこんだアルベロは立てず、うつむいていた。


『もぐ……』

「……大丈夫だよ。ちゃんと立てる。それに、俺だって何も考えてないわけじゃないぞ」


 ボコンと、土の中から出てきたモグが心配そうにアルベロの手に上る。

 アルベロは、モグを撫でながら言う。


「たぶん。エステリーゼ姉さまがラッシュアウト家の当主になる。そうなれば、俺の居場所なんてない。フギル兄さまの言う通り、今から将来のこと、決めておかないと」

『もぐ?』

「俺、農民になるよ。お小遣いを貯めて、ラッシュアウト領土じゃない小さな領土に土地を買って、畑を耕して生きていくんだ。モグ、お前もおいしいミミズがいっぱい食べられるぞ」

『もぐ!』

「あはは。嬉しいか?」


 モグの頭をウリウリと撫でていると、今度は別の人影が。


「まーたそんなこと言ってる!」

「うげ、アーシェ……」

『ぴゅるる!』

 

 幼馴染のアーシェだった。

 長いエメラルドグリーンの髪、勝気な目に結ばれた口元。アルベロを見る目はどこか厳しい。

 そんなアーシェの肩には、小さな文鳥が止まっている。

 

「グリフォン。アルベロにおしおき!」

「げ、ちょっと待て!」

『ぴゅるるーっ!』


 グリフォンと呼ばれた文鳥が鳴くと、アルベロの頭に石みたいな塊がコツンと落ちた。

 だが、石ではない。グリフォンの能力は『気体操作』で、空気を固めてアルベロの頭に落としたのだ。

 二人はまだ子供だから知らないが、使いようによっては恐ろしい能力だった。


「い、痛いな……なにすんだよ」

「アルベロが馬鹿なこというからおしおき! いーい? アルベロとあたしは『アースガルズ王国』の精鋭召喚士になるんだから!」

「……無理だよ。それに、王国の召喚士になったら、『魔帝』と戦わなくちゃいけないんでしょ? 魔帝の配下には強い『魔人』がいっぱいるし」

「だーかーら! 『アースガルズ召喚学園』で勉強して、召喚獣と一緒に強くなるの!」

「無理だって……アーシェは強くなれると思うけど、俺は無理だよ」

「むぅぅ~……アルベロの弱虫! モグ、アルベロの召喚獣やめてあたしと一緒に行こ!」

『もぐー!』

「あはは。嫌だってさ」

「むー! アルベロのばかー!」


 アーシェがポカポカとアルベロを叩いた。

 アーシェは、ラッシュアウト家に代々仕える執事の娘。同い年のアルベロとは仲が良く、こうしてこっそり会ってはよく話していた。

 

「アーシェ。俺は召喚士にはならないよ。お前さえよければ、一緒に農民にならないか?」

「え、プロポーズ? ふふ~、アルベロってばエッチ!」

「ち、ちがうし! もう、アーシェと結婚してやらないからな!」

「いいもーん! あたしは召喚士になるもーん! ふふ~ん。アルベロ、農民が嫌になったらお婿さんにしてあげる!」

「むぅ……ま、考えとく」

「あはは。待ってるね!」


 ラッシュアウト家の裏庭は、今日も平和だった。

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