第11話 お泊まりクエストってなんですか? 3

「いいお湯でした...と。」


頭をタオルで拭きながら、僕は脱衣所から出た。もともと髪の毛が長くない僕はよく髪を乾かさないで居ることが多い。


湯上りのこの感じが好きだからだ。それは小さい頃から変わらず、よく風邪をひいては怒られたけど。


「あ、ひ、日向くん。」

「え、先輩?」


湯上りの先輩がゆったりとした服を着て、椅子に座りながら僕を待っていたらしい。僕を見つけてぴょんと跳ねると、僕の元までぽてぽてと歩いてきた。


湯上りということもあるが、少し濡れた髪の毛とほのかに赤い唇がなんともまぁ艶かしい。それにゆったりとした服を着ているからか、先輩のボディラインはもちろん、スラリと伸びる素足が、僕の視線を奪っていく。


「だ、大丈夫ですか?」


そう言いながら僕に近づいてきたおでこを触ってくる。どうやら僕のことを心配してくれているのだろうけど、近づいたおかげで先輩の香りが鼻に届く。


同じものを使っているはずなのに、先輩の方がいい匂いに感じるのは何故だろうか?


「だ、大丈夫です...よ......」

「ん?......あ...え〜と......」


先程の出来事が僕の脳裏に思い浮かんでしまい、恥ずかしさのあまり、顔を逸らしてしまった。その反応から先輩も耳まで真っ赤にしてしまう。


「え、え〜と......。照れちゃいますね...えへへ......」


そう言う先輩が可愛すぎて、ぼくの心臓は高鳴るばかりだ。誤魔化すように僕は先輩に質問した。


「そ、それでどうして先輩はここに?」

「ふえ?あ、え〜と。牡丹さんと梨花さんはもう少しだけ浸かるそうなので、どこに行けばいいのか分からなくて......」

「まぁここまで一直線でしたし、分からないですよね〜」

「は、はい!そうなんです」


そんなたわいもない話をして、じゃあそろそろ行こうかというタイミング。ゆっくりと、恥ずかしそうに差し出された手。


ラノベで学んだ上目遣いを先輩が僕にしている。高鳴る心臓が最高潮まで行きそうな僕が掴んだ手を瞬間。女湯から出てくる人影が二つ。


「いいお湯でした〜あれ?」

「ええ、そうね。あら、ふふ。私たちはもう少しだけ入っていましょう。」

「そうですね〜」


そう言い残すと、二人の使用人は女湯へと帰っていく。

プルプルと震える先輩と、赤くなった僕を残して。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へ、へぇ〜日、日向くんはここで毎日り、料理してるんですね、ね〜」

「は、はい......。」


先輩は真っ赤になったまま、台所をちょこちょこと動き回る。その間にも、同じようなことを僕に向けてくる。ちなみに先程の会話はこれで通算4回目だ。


かなり先程の事で参っているみたい。うし、恥ずかしさとか捨ててここは僕が頑張らなければ。


「先輩?」

「は、はいぃぃいいぃ!」


ビシッと体が膠着したみたいな先輩の姿に少し笑ってしまった。


口が三角になりながら、はてなマークをあげる先輩に近づいて僕はじっと瞳を見つめる。先輩も少し潤んだ瞳で僕を見つめ返す。


「さっきの先輩の言葉本当に嬉しかったです。本当に今日はありがとうございます。」

「ふえ?へ、へへへへ」


先輩は照れくさそうに笑いながら、にこやかに僕を見つめ返す。ん、うし、多分元に戻ったと思う。


僕は振り返り、冷蔵庫の中を確認した。先輩もピトッと僕の横に立ち、同じように中を見る。


「それで、何が始まるんです?」

「え、普通に料理しますけど......」

「あ、そ、そうですよね...普通は知らないネタですし......」

「?」


やっぱり先輩の言うことはまだ分からないことが多いみたいだ。


えーと、何作ろうかな。ほんとに。僕は適当な具材をテーブルの上に出し、準備を始める。


「明太子と生クリームと...大葉ですか?」

「はい。パスタにしようかな、と。今からご飯炊くにしてもちょっと時間かかりますし、ぱぱっと作っちゃいますね。」

「え、え、え。そんなすぐ出来るんですか?」

「まぁパスタ茹でて混ぜるだけですし。」


僕は大きな鍋に水を貯めて、火をかけ始めた。先輩はその様子を面白そうに眺めている。


「先輩楽しいですか?」

「はい、とっても!」


なら良かった。


その後すぐに明太子パスタはできて食卓を囲む。最初は緊張していた先輩だけど、すぐに食卓に打ち解けたみたいで僕はホッとした。


そうしていつもと違う夕飯は、つつがなく終わった。

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