第8話 お出かけってこれで合ってますか? 4
「すっかり夕方になっちゃいましたね〜」
「そうですね。すみません、ここまで遅くなるとは......」
いいですよ〜と軽く手を振る先輩。夕日に照らされた先輩は、どんな絵画にも負けないなんて思ってしまう。
店内から出て、ゆっくりと二人歩きながら駅へと向かう。
今日は楽しかった。スマホも買えたし、色々な僕の知らないことを知ることが出来た。
目を向けてみれば、僕の知らない世界が多くあって......それは楽しいことが多いなんてことにやっと気がついた気がする。
でも。
「ん?どうしました〜?」
じっと見つめる僕に気づいて、へにゃっとした笑顔を浮かべる先輩。
きっと先輩と来たから、楽しかったんだと僕は思った。
「先輩、今日は―」
そう言い出した時、頬にポツリと何かが落ちた感覚。先輩も同じように頭を擦りながら、空を見上げた。
「雨......?」
そう先輩が呟いた瞬間、大きな音を立てながら雨が降り注ぎ始める。やばい、雨降るなんてニュースで言ってなかったじゃん!
「先輩!駅まで走りましょう」
「は、はいぃぃぃ!」
頭を抑えながら、僕と先輩は走る。大粒な雨が地面に弾けるように降り続く。ゲリラか通り雨か分からないけど、どこか入れるところは!?
そう思い周りをキョロキョロと探しながら駅へと急ぐが、雨宿り出来そうなところは何処も彼処も人がギュウギュウ詰め状態。
考えることはみんな同じか、これは駅に行くのが1番早いかも!
そう思いながら後ろに着いているはずの先輩に目を向けると遥か後方を泣きながら走っている......と思う先輩が居た。
「日向く〜ん!走るの早いですぅぅぅぅ!」
ぽてぽてなんて効果音がなっていると錯覚するほど、先輩はゆっくりとした調子で走っていた。
いや、先輩足おっそい!
僕は来た道を戻り、先輩の手を引きながら駅へと急いだ。一生懸命走っているであろう先輩に合わせながら、僕も転ばないように走り何とかして駅へと着く頃には二人ともずぶ濡れになってしまっていた。
「いきなり降るなんて聞いてないですよぉ」
「び、びっくりしましたね......」
ハンカチで髪の毛をふく先輩と、シャツの雨を絞る僕。駅へと逃げた人達も大体は同様の行動だ。
「久々に全力疾走しましたぁ〜」
「あ、あれで全力疾走って、いや先輩!それどころじゃ!」
「ふえぇ?」
雨に濡れて艶やかな先輩が僕を眺める。その様子に心臓が高鳴るが今はそう言っていられない。
雨で濡れた先輩がカーディガンを脱いで、雨を搾っていたからだ。その行動になんの間違いもないが、そのせいで先輩の下着が透けて顕になっていた。
先程から視線を感じていたが、このせいか!
スマホを片手に口笛を吹くような男をキッと睨みながら、僕は来ていたシャツを先輩にかける。
「ひ、日向くん......?」
「先輩も女の子なので、気をつけてくださいね」
そう言われ、自信の置かれた状況に気がついたのか、はっと胸を隠すように隠す。僕は頭をぐしゃっとかきながらポケットに入っているはずの紙を取り出す。
良かった、濡れて文字が霞んでいたらどうしようかと思った。
「これはあんまりしたくなかったんだけどなぁ」
「?」
僕の独り言にはてなマークを浮かべる先輩に僕は話しかけた。
「先輩ここから電車でどれぐらいですか?」
「え、ええと大体二十分ぐらいですかね?そこから少し歩いて家です......けど?」
「そのままじゃ確実に風邪引いちゃうと思うので、出来れば僕の家に来ませんか?」
「ふえぇ!?ひ、日向くんのお家ですか!?」
「先輩の家よりかは早く着くので、服を乾かしましょう」
「え、でも、さすがに......」
「今日付き合っていただいたお礼として。あ、普通に嫌なら別に大丈夫なんですが......」
あまりの突然の発言に僕はハッとしながら、そういった。さすがに男の家に突然呼ばれたら気持ち悪いよね......。しまった反省しないと。
そう考えていたが、先輩は意を決したように僕に詰め寄ると僕にだけ聞こえるように呟いた。
「か、覚悟は決めましたから......」
「か、覚悟ですか?」
思いもよらない言葉に変に上擦った声で返答してしまったが、先輩は気のせずこくんこくんと頷く。
何か変な覚悟を感じるけど、ひとまずは電話が先かな。僕は紙に書かれた綺麗な電話番号の文字を、買ったばかりのスマホに打ち込んで電話をかけた。
数秒の呼出音の後、女性の声が出た。
「はい。牡丹です。」
「あ、もしもし牡丹さん?」
「無事スマホが買えたようで何よりでございます。坊ちゃん」
「はい!あ、それより―」
「車ですか?」
「え、そうなんですけど。どうしてそれを―」
言い終わらないうちに電話が切れ、不審に思っていると目の前の道路の向こう側から、確実に法定速度を破っているであろう速度で高級車がこちらに向かってくる。
周りの人は慌てふためき、美空先輩も僕の腕を引っ張りながら逃げましょう!と言ってくるが、呆れた様子で僕は立っていた。
凄まじい速度からの寸分の狂いもなく綺麗なドリフトを決めながら、僕達の前に止まる。
運転席の窓がゆっくりと開けられ、そこから僕の見知った顔がひょこっと出てきた。
「お迎えに上がりました。日向坊ちゃん」
「いつも普通に来てって言ってますよね......」
「そうでしたか?」
キョトンとしながら初めて聞きましたと言わんばかりの顔をしながら牡丹さんが、車のドアを開ける。
弱まった雨の中、僕は興奮と驚きに満ちた先輩の手を引きながら車へと乗った。
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