第二十話 裏切りは蜜の味がする-2

「ハサミ、東ゲートは閉められている。別の入り口を探そう」


 それから数時間後、ハサミとフモウはCOMBが占拠している深夜の動植物園に侵入する手段を探っていた。


「だが、この様子だと他のゲートも恐らく封鎖されている。見張りはいないようだが、すんなり入れる程、簡単な話じゃないぞ。どうする気だフモウ」

「ふむ。ならば屋根から侵入するというのはどうだ? 丁度あそこから登れそうだ」


 フモウが指で示した方向には背の高い木があり、ドーム状の温室になっている動植物園の屋根に寄りかかっていた。


『フモウの言う通り、屋根の上からならば抜け道のようなものも見つかるかもしれないな』


 ハサミとフモウが木に登り、ガラス張りの屋根の上に降りる。


「見ろ。向こうに屋根が欠けている部分があるぞ」


 フモウは人が一人分通れそうな大きさの穴を発見する。


「今のところ見張りは近くにいないようだな。俺が先に降りる。フモウは俺が合図してから降りてきてくれ」


 ハサミが屋根の穴から一番近い木に傾狼を投げ、傾狼は木のてっぺんに被さると、憑依によって木を傾ける。


『ほらよ。折れ曲がりすぎて幹がポキッとなる前に早く飛び移るんだ』


 ハサミは木の枝を伝って床に降り、周囲を見渡す。


「……大丈夫そうだな」


 ハサミがフモウに合図を出して、フモウも床に着地する。

 傾狼は憑依を解いて、ひらひらとハサミの頭の上に舞い降り、憑依していた木はミシミシと音を立てて真っ直ぐに戻る。


「武器を構えておけ、どこで敵と出くわすことになるかわからない」

「指示されなくてもわかってる」


 ハサミたちは園内の草むらに隠れて装備の確認をする。


「…………なあ、フモウ」


 そんな時、ハサミは真剣な表情でフモウに声をかけた。


「なんだ?」

「お前はWIGが悪の秘密結社だと言われたら信じるか?」

「突然何を言い出すんだ」


 怪訝な表情をするフモウにハサミは一枚の紙を渡す。

 ハサミが渡したものは倉庫から持ち出していたヘッド・ギアの資料だった。


「博物館の倉庫にあったものだ。あの博物館はWIGが所有している建物。WIGはあの倉庫に何か秘密を隠していたんじゃないか?」

「待て、貴様は何を言っているんだ」

「WIGが裏で行っている実験のことだ。ヘッド・ギアとDURAを使って人工のエクステンドによる軍隊を作ろうとしている」

「貴様の話がまるで理解出来ないが、この資料に書かれていることは本当なのか?」


 フモウはハサミから渡された資料に目を通し、眉間にしわを寄せる。


「COMBの幹部が話していただけだが、ちゃんと真実を知りたい」

「私はこんなもの知らない。……しかし、貴様が言うのならば少し調べてみよう」


 フモウが資料を自身の胸ポケットにしまう。


「フモウ……お前は俺の味方か?」

「やけに自信のない言い方をするのだな」

「俺はWIGに忠誠を誓っている。本当は違うと思いたい」

「私も同じだ。しかし、貴様がテロリストの言葉に踊らされているだけという可能性もある。だから、貴様の味方だとは断言出来ない」

「お前はそういう奴だよな」


 フモウの答えにハサミは微笑む。


「――伏せろッ!」


 突然、フモウが何かに気づいてハサミの頭を鷲掴みにする。

 二人が姿勢を落とすと、頭上を鞭のようなものがかすめていく。


「グルルルルルルッ!」


 二人の背後にライオンがうなり声を上げて立っていた。


「ライオンだと!? 檻から逃げ出したのか!?」


 フモウは立ち上がって剃刀を構える。


「フモウ、こいつの鬣、まるでエクステンドみたいだ」


 よく見ると、ライオンの鬣はEXスタイルで操られているように重力に逆らって揺らめいていた。


「グオオオオオオオッ!」


 ライオンは触手のような鬣でハサミとフモウに襲い掛かる。


「あなたたち! そこから動くんじゃないわよ!」


 だが、次の瞬間、どこからか飛んできた液体がライオンに直撃して怯ませる。

 謎の液体を掛けられたて命の危機を感じたライオンは身を引いた。


「危なかったわね。どこにも怪我はないかしら?」


 ハサミとフモウに声を掛けたのは背の高い痩せぎすな紫髪の男だった。

 紫髪の男は髪を三つ編みにしており、三つ編みの先が蛇の頭のように変化していた。


「アタシはブレイド・フィッシュボーン。COMBの幹部よ」

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