第九話 宿命が彼の名を呼んだなら-9
ハサミが辿り着いたのはショッピングモールの地下駐車場。
そこには大勢の断髪式隊員たちが倒れており、フモウがたった一人でカミキリと戦っていた。
フモウは武器の巨大な直刃剃刀を鉈のように振り回す。
それに対してカミキリは腰と背に二本の刀を装備しており、腰の刀一本で殺陣を演じていた。
「カミキリ! どのような理由で姿を現したか知らんが、貴様を捕えて頭を丸めてやる!」
「いい太刀筋だ、フモウ・アイアンヘッド。だが、君には私を倒せない」
カミキリは甲冑とは思えない動きでフモウを翻弄し、フモウの身体には疲労が蓄積していく。
「私はEXスタイルを使わずとも君に勝てる」
「思い上がるな! テロリスト風情が!」
フモウは渾身の斬撃を繰り出すが、カミキリはその振るわれた剃刀に飛び乗り、無防備になったフモウの首に刀を振り下ろそうとする。
しかし、両者の間に割り込んできた麦わら帽子が刀からフモウを守る。
「間に合ったか。俺が来なければ危うく死ぬところだったぞ、フモウ」
駆けつけたハサミの頭に麦わら帽子と化した傾狼が戻っていく。
「ハサミ! どこで油を売っていた!」
「COMBの幹部を名乗るアフロスって男を倒してきた」
ハサミはフモウの隣に並び、距離を取ったカミキリと向き合う。
「アフロスを倒したのか。あの男はCOMBの中でも五本の指に入る実力者だったが、それをこの短時間で片づけるとは、右左原ハサミ、君を見直した」
「……何が見直したって言うんだ。俺はお前がしたことを赦しはしないぞ、カミキリ」
ハサミの復讐鬼の形相でカミキリと目を合わせる。
『ハサミ、憎しみには囚われるな』
「悪いがアニキ、家族を殺されて憎しみを抱かないなんていないんだ」
ハサミはセニングダガーを握り、カミキリに向かって突撃する。
ハサミが放った一撃は刀によって防がれるが、それでもハサミは飢えた一匹狼のように貪欲に喰らいかかる。
「直線的な攻撃だ。あくびが出るほどにわかり易い」
だが、ハサミの攻撃は一度たりともカミキリには届かなかった。
「アニキ、俺の攻撃に合わせて後ろからあいつの兜を狙ってくれ」
『おい、また俺を無理やり投げるつもりか!?』
「アフロス一味の時も、フモウを助ける時も投げていただろ」
『あれは俺様も心構えが出来ていたからな! いきなり投げられたら目が回るんだよ!』
「とにかくやってくれ」
ハサミは有無を言わさず麦わら帽子の傾狼を投擲した。
『ああああああああっ!』
傾狼は喚きながらカミキリに向かって飛んでいく。
しかし、カミキリは飛んできた麦わら帽子の鍔を左手で掴む。
「相棒に頼っても私には通用しない」
「けれど、片手は空いた」
ハサミはカミキリの懐まで間合いを詰め、セニングダガーを手にした両腕でカミキリの右手を固め、刀にメッシュブレードを絡ませて、カミキリの手から奪った。
「これでお前の武器は一つ減った」
ハサミが刀をカミキリの手が届かない場所まで放り捨てる。
「なるほど、怒りに身を任せてはいるが、最低限は頭が回っているか」
カミキリから異様な殺気が放たれる。
思わず身震いしたハサミがカミキリから腕を外すと、カミキリは背中の刀に手を回す。
「メッシュブレード……昔はEXスタイルを制御出来ていなかった君がここまで成長するとは思ってもいなかった」
「昔? 俺とお前はこれが初対面じゃないのか?」
「さてな。そんなことを気にしたところで君には何も出来ない」
『やってみなくとゃわからねえだろ!』
カミキリに掴まれていた傾狼が叫ぶ。
「そうだ。アニキの言う通り、結末は最後までわからない」
ハサミはメッシュブレードを纏った身体でカミキリに突進する。
メッシュブレードは周囲のコンクリートや金属を容易く切り裂く。
「まるで大嵐だ。……しかし、私は嵐を断つ一撃を持っている」
カミキリが傾狼を捨てて、背中の鞘から刀を引き抜く。
「あれは――待てハサミ! あの刀は危険だ!」
フモウがハサミに呼びかけるが、ハサミの耳には聞こえていなかった。
ハサミはカミキリに対する憎しみの心に飲み込まれていた。
「身体髪膚、全てをこの一太刀に捧げる。我が肉、我が魂を喰らい、叛逆しろ」
刀を抜いたカミキリが口上を声に出して構え始める。
「上を仰ぎ、髪をなびかせ、神を斬る。【髪切×一刀両断】」
カミキリは脇構えで狙いを定め、右足で踏み込み、刀を振り抜いた。
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