第六章・お気楽な世界再構築と顔を蹴られた裏地球の娘
① マオマオくん、いつもの朝
暗闇果実は、自宅の自分の部屋で朝の登校準備を進めていた。
制服姿の果実は姿見鏡の前に立って、制服チェックをする。
「ネクタイも曲がっていないし、スカートのヒダもバッチリ……次はと」
果実は近くの台に置いてあったウサギ耳のカチューシャを被り、スカートのお尻のところに丸いウサギ尻尾の学校指定のアクセサリーを付ける。
鏡に映る、バニー尻尾をつけた、お尻を振って尻尾が落ちないか確認する。
「うん、大丈夫……ちゃんとくっついている。行ってきまーす」
バニーイヤーとバニーテールをつけた、果実は登校する。校門をくぐると果実と同じように、ウサギ耳とウサギ尻尾の女子生徒が果実に挨拶する。
「おはよう、果実」
「おはよう……あれ? 今日、真緒は休み?」
にこやかな笑みで、自分と同じウサギ耳とウサギ尻尾の女子生徒と対面していた果実は、何かに気づいた様子でUターンすると、一直線に魔王城に向かいそのまま真緒の部屋へと飛び込んだ。
寝具にくるまって惰眠を貪っている、魔王真緒を叩き起こした果実は、真緒の胸ぐらをつかんで怒鳴る。
「何をした!? 今度は何が原因で世界を滅ぼして再構築した!!」
胸ぐらをつかまれ、ガクガクと揺さぶられながらマオマオは、いつもののほほんとした口調で答える。
「いやぁ、閃光王女狐狸姫の声を担当している女性声優さんが、体調不良で降板するかも知れないってネットで流れたのを見たらパニくって……つい世界を」
「そんな、個人的な理由で毎回この世界を滅ぼすな! 声優さんにだって都合があるんだよ! 声優の体調が悪くなったのは真緒の責任だぞ!」
「そうなの?」
例え五分前に再構築された世界でも、それを認識できる者はごく少数だ。
「アニメから降板したくても真緒が世界構築するから、記憶には残らないけれど知らず知らずに疲労が蓄積しているんだよ! 声優を疲労で殺す気か! 新人声優にも狐狸姫役のチャンスを与えろ!」
「う~ん……別の声優さんだと聞いた時、違和感あるし」
「耳が慣れる! とにかく、元にもどせ!」
数分後──再々構築された世界で、果実はバニーテールが無くなった制服のヒップを振り向いて確認する。
「他に何が変化させている世界の箇所はないでしょうね」
「ないない」
「それならいいけれど……どうして、さっきは制服にバニーイヤーとバニーテール付けたの?」
「果実にウサギ耳とウサギ尻尾があったら、可愛いと思ったから」
なぜか、顔を赤らめる暗闇果実。
「と、とにかく学校へ行くわよ」
「えーっ、面倒くさいよ……学校の方から来てもらったら、移動可能な校舎なんだから……確か、他校の校舎と合体変形もできたよね」
「横着するな!」
果実の頭が、フルーツバッド怪人の頭に変わる。
「真緒が歩いて学校の方に行くの! これ以上、自堕落な人生歩んでどうする」
果実が顔を人間体にもどすと。
マオマオは渋々、果実と一緒に学校へ向かった。
途中の公園では、怪獣の子供とヒーローの子供『怪獣さんがころんだ』をして遊んでいるのが見えた。
ビルに顔をつけた怪獣の子が言った。
「怪獣さんが……ころん……だ!」
近づく、怪獣の子供とヒーローの子供がピタッと止まる。
「怪獣さんが……ころ・ん・だ!」
鬼役の怪獣の子供に必殺技を浴びせようポーズをとった。巨大ヒーローの子供が少しよろける。
それを見た鬼役怪獣の子が口から、炎をヒーローの子供に吐きかけて言った。
「レッドくん、動いた! 次の鬼は君だよ」
炎で炙られて顔を真っ黒にしたヒーローの子供が照れて笑う。
「てへっ、動いちゃった」
平和な子供たちの遊びを見て真緒が、安らいだ笑みを浮かべる。
「平和だなぁ……ねぇ、果実こんな天気がいい日は、学校へいかないでどこかで一緒にお昼寝でも……」
「しないよ、なんで真緒とあたしが一緒に昼寝を……」
果実は前方の道をふさぐように、横になって停車しているタンクローリー車を見て。
「あちゃ、朝から面倒な大人が」
そう呟く。タンクローリー車の上に逆光で現れる『極神狂介』
「待っていたぞ魔王の息子! 今日こそ、おまえを倒す」
指の関節をポキポキ鳴らず暗闇果実。
数分後──果実にボコッられ、地面で瀕死の虫のように、うつ伏せでピクピクしながら。
「ちくしょう! ちくしょう!」
と、わめいている狂介の姿があった。
果実と真緒が先へと進むと、今度は鎖ビキニアーマーで三メートルを越える大剣を掲げて叫ぶ、極彩翼天使『青賀エル』が現れた。
「真緒くん、大剣に潰されてピュアな天使に……」
エルが言い終わる前に横道から転がってきた球体の物体がエルに激突して、エルを吹っ飛ばす。
「げぶっ!?」
転がってきてエルに激突して止まった、灰鷹満丸。
「真緒くん、おはよう」
「おはよう、満丸くん」
満丸を加えた三人で歩いていくと、今度はヒラヒラ衣装の怪人に変身した『白玉栗夢』が叫びながら襲ってきた。
「マオマオくん、父の仇!」
栗夢の怪人頭突きが、通学路にある住宅の塀に穴を開けた──塀にはボコッボコッと栗夢が開けた穴がある。
日課の魔王真緒襲撃が終わった栗夢は、スッキリした顔で真緒に言った。
「あぁ、スッとした……それじゃあ、また明日ですマオマオくん」
「うん、また明日ね……白玉栗夢さんと同姓同名の怪人さん」
「来て! ハネハネちゃん、スクランブル合体」
空中にジャンプした栗夢の胴体を、紅の羽を持つ飛行小型怪獣『ハネラー』が蛾の足でつかみ、白玉栗夢はベトベトするモノを撒き散らせながら飛び去って行った。
果実、真緒、満丸の三人が学校に向かって歩いていると、銀鮫海斗が合流する。
「よっ、真緒……果実と満丸も、よっ」
「おはよう、海斗」
登校する四人──途中の児童公園を通りかかると、灼熱雷太の一人用テントが目に留まる。
海斗がテントに向かって呼びかける。
「雷太、たまには学校の方にも顔を見せろよな」
テントの入り口から、手を振る腕だけが見えた。
海斗が呟く。
「雷太のヤツは、またテントの中でスッボンポンか……バカは風邪ひかないからいいけれど」
前方に校舎が見えてきた──道端にある黒いゴミの袋の中に潜んで、魔王の息子を待ち伏せしていた『勇者メッキ』は、ゴミ袋をつついてくるカラスたちを、袋の中から木の棒を出して必死に追い払っていた。
メッキが潜むゴミの袋の横を通過する真緒たち一行。
海斗がポツリと呟く。
「それにしても、退屈な毎日の連続だな」
「海斗、平凡で当たり前の毎日が一番だよ」
「真緒の場合は、アニメ観ていれば毎日が幸せでしょう……本当に残念なイケメンなんだから」
ビル街では、巨大ロボット『暁のビネガロン』が、自称パートナーを名乗るストーカー気質っぽいグラビアアイドル並みのボディラインを持つ。
女性型巨大ロボット『紺碧のテイルレス』に地獄の顔面ハグをされて、軟質のDカップおっぱいミサイルを連続して顔面に撃ち込まれビネガロンはもがいていた──マオマオの世界の平和な日常の光景だった。
この時──歩いていく真緒たちを、少し高い坂道から見下ろしてソフトクリームをナメている少女の姿があった。
ショートパンツを穿いて、真緒たちと同年代くらいに見えるワンサイドポニーテール髪型の少女の顔や腕や足には、絆創膏が数ヶ所貼られている。
半分溶けかかったソフトクリームをナメながら、謎の少女が言った。
「温暖化を止めないと、ソフトクリームの氷河が溶けちゃうぞ……まぁ、マオマオくんの、あののほほんとした顔を見たら、何回も顔を殴られたコトも許せて水に流せちゃう。本当に水に流したら、大洪水発生で方舟造らないといけないレベルだけれど」
謎の少女は空を見上げると、眩しそうに目を細めて呟いた。
「もうすぐ、別の地球からとんでもないヤツがやってくるよ……さてさて、魔王の息子のお手並み拝見といきますか」
ナメていたソフトクリームの中に含まれていた氷粒の中に、何かを発見した少女は嬉しそうな声を発する。
「あ、氷の粒の中に、恐竜が入っていた♪ ラッキー♪」
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