⑧ラスト


 空き地で栗夢は羨望の目差しで、空中戦をしているエルと果実を眺めていた。

「空飛べる人たちはいいなぁ──そう言えば、あたしの取り扱い説明書にも確か飛行パーツの説明があったような?」

 栗夢は腰に提げたスマホケースから、携帯電話を取り出して操作する。

「あ、あった! なになに、小型怪獣『ハネラー』を呼んでボディと合体させるコトで飛行可能……合体!? 

あっ、説明に先がある。ハネラーの名称は初期段階の怪獣名です、自由にカスタマイズした名前で呼ぶコトが可能です……カスタマイズ!?」

 栗夢は説明手順に従って、飛行パーツ怪獣を呼び出してみるコトにした。

「まず、右手で左手の脇の下を押さえて、脇を押さえた左手を頭上に挙げて怪獣を呼ぶ──えーと『ハネハネちゃん』来て」

 ジェット機のような音を響かせて、紅の妖精羽を生やした蛾の怪獣が飛んできた。

「ハネェェェェェェ」

 丸顔に黒い点目の小型怪獣は、そのまま栗夢の背中側に回り込むと蛾の腕で栗夢の胴体をつかむ。

 背後から蛾に抱きつかれ、小さな悲鳴を発する栗夢。

「ひっ!?」

 栗夢の体が空中に浮かぶ。

「すごい、あたし飛んで……ち、ちょっと。どこへ飛んで? そっちじゃない! あーっ、そっちじゃないって!」

「ハネェェぇェェェ」

 ハネハネちゃんは、栗夢を抱えたままどこかに飛んでいった──白玉栗夢、戦線離脱。


 冷奈がエルと戦っている果実の援護で、エルがいる上空に向かって大量の冷気を吐く。

 冷気はエルを包み込み、ビキニアーマー天使が氷の中に氷柱花のように閉じ込められた。

 歓喜の声をあげる冷奈。

「やったぁ! 果実お姉ちゃんを守った」

 冷奈が喜んだのも束の間、エルを包み込んだ巨大な氷塊が冷奈目掛けて落ちてきた。

「えっ!?」

 逃げる間もなく、落ちてきた氷山の下敷きになった冷奈は意識を失った──黄昏冷奈、戦闘不能。


 落下した氷山の欠片が、シャコの方に飛び。欠片にぶつかったシャコが転倒した弾みで海水カプセルの上部がパカッと開き、中の海水が漏れる。

 急いでフタを閉めたシャコだったが、海水は鼻の下辺りまで減っていた。

「ゴボッゴボッゴボッ」

 苦しそうにもがいている妹を見て、タコ足で三ツ又のポセイドン銛をつかみ、真緒を刺し貫こうと無限軌道を回転させて向かっていたホヤは。

「あれは、マズい! 妹よ今助ける!」

 そう叫ぶと方向転換して、苦しんでいるシャコの方に向かう。

 サザエの中から、さらに出したタコ足で、シャコの体をつかむとホヤがサンゴに言った。

「海に帰るぞ、サンゴ」

「御意」

 イソギンチャクの中から上半身を出して、刀を構えていた魚斬サンゴは、イソギンチャクの中に引っ込み。

 シャコをタコ足でつかんだ青潮ホヤは、猛スピードで海へと帰っていった──青潮シャコ、青潮ホヤ、魚斬サンゴ、海へと帰り戦線離脱。


 果実が超音波で氷を砕き、穴を開けて冷奈の救助をしている氷山の反対側から自力で脱出したエルは。

 ビルほどの大きさがある超大剣を作り出して、なんとか抱え持ち上げる。

「お、重い……コウモリ女、氷の中で悪魔みたいに寝てろ!」

 そのまま、氷に向かって超大剣をよろめき倒すエル。

 轟音と共に果実は氷の中に埋もれた──暗闇果実、氷の中で戦闘不能。


 立ち上がったエルが言った。

「やっぱり、最後に残ったのは神の加護がある。あたしだった……

でも、もう光輪も大剣も作り出す力は残っちゃいない──こうなったら、最後の手段」

 エルはカエルのような姿勢でしゃがむと、ゲコッゲコッ鳴きはじめる。

「ゲコッ……イチバチか肉体を肉食ガエルの魂に開放して、魔王真緒を喰って昇華させるゲコッ……カエルに喰われた魂が天使になるか悪魔に堕ちるは、ロシアンルーレットだゲコッ……魂開放」

 肉食ガエルの動きで跳んだエルが、斜めに切断された土管の中にいる真緒に向かって襲いかかる。

 絶体絶命の魔王真緒。

「ゲコォォォ! ゲッゲッゲゲゲゲ!?」

 跳んだエルの視線の先に、野次馬のアカマタがいた。

 ヘビに睨まれたカエル……空中で石のように硬直して落ちるエル──青賀エル、カエル開き足のエロポーズで固まったまま戦意喪失。


 空き地にヒューと風が吹き抜ける。見学していたアカマタが言った。

「なんだ、もう終わりか……つまらん、寺に帰るぞ朱蘭」

 怪僧アカマタと、植物ゾンビの朱蘭が空き地からは姿を消すと、数分後に優魔たちが現れた。

「よーよーっ、空き地で激しい戦いがあったみたいだよーっ、あそこに青賀エルが倒れているよーっ」

 仰向けで白目を剥いて、カエルがひっくり返ったような格好で、ピクッピクッしているエルを肩に担ぐビッグフット。

 キャスケット帽子を被ったワンパスキャットが、切断された土管の中に座る真緒を見つけて頭を下げる。

 真緒が缶飲料を優魔の方に差し出して言った。

「良かったら少し持って行って、ダブったプレミアム缶があるから……そのお尻をこっちに向けて担がれている、エッチな天使のお姉さんにも渡してあげて」

「よーよーっ、いつも気を使ってもらって、真緒さま、すまないよーっ」

「マンドラゴラの長老さんにも、よろしくね……また遊びに行くから」 


 エルを回収した優魔たちの姿が見えなくなると、真緒は砕けた氷の山を眺めながら呟いた。

「果実と冷奈ちゃんが、氷の中から出てくるのを待った方がいいかな?」

 マオマオくんの世界は、今日もすこぶる平和です。


第四章【復讐の妖精怪人とハンター天使と必殺パンチの海中女】~おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る