③常夏海岸「いつでも夏だぁ!」
「防水加工の気密性が高いスーツだから、水着の上にこの強化スーツを着込めば海水も防げると思うの。シースルーな素材だから水着も見せられるし……ナメ子さんを海水浴に連れていくなら、この強化スーツが絶対必要よ」
真緒たちは、透過の戦隊マスクを眺めながら。
(この、強化スーツを着て戦っていた人……知り合いや身内に正体バレバレで、イヤだったろうな)
と、思った。
翌日……真緒たちは百々目一色と一緒に年中夏の『常夏海岸』にバスでやって来た。
バスの屋根の上には、足軽鎧を着けた、巨乳の女幽霊『飴姫』がちょこんと、竹槍を担いで胡座している。
地縛霊で学園の敷地内から離れられない飴姫も、生前の許嫁と生き写しの真緒から無意識に発せられた『海水浴場行きたいパワー』に引き寄せられると。
こっそり同行で学園の敷地内から離れるコトができた。
(久し振りの外出だ……楽しまないとな、しかしこの巨乳に合う乳バンドがなかなか無い)
バスとすれ違う対向車は、屋根の上に座っている飴姫に驚き……次々と事故っていた。
白砂の海岸は水着姿の海水浴客で賑わっていた。
白波の海岸線を見て、感動するナメ子が言った。
「あれが海か……これが微生物が腐敗した磯の臭いか」
浮かれて潮風を思いっきり吸い込んだナメ子は、口と鼻を手で押さえて地面をのたうち回る。
「ふごおぉぉ!?」
クーラーボックスから、急いでコーラ瓶に入った冷えた酢を差し出す果実。
「ナメ子、早く酢を飲んで中和させて! 溶けちゃうよ!」
瓶を受け取ったナメ子は、酢を仰ぎ飲んで一息つく。
「ふ──っ、危なかったぜ……海は魔物だな、油断した」
一色が花粉対策のマスクとサングラスをナメ子に手渡して言った。
「いきなり、潮風の深呼吸は危険よ……徐々に体を慣らしていかないと、できるだけ肌も露出させない方がいいわね」
数十分後……マスクにサングラスをして、冬季並みの格好で立つナメ子の姿があった。
ナメ子の首にマフラーを巻いて一色が言った。
「これで良しと、できるだけ早く水着に着替えられる場所を探した方がいいわね」
熱さにフーッフーッ言いながらフラフラしているナメ子を見て、海斗が額の汗を首にかけたタオルで拭う。
「見ているコッチの方が暑くなってくるな……早く海の家で水着に着替えて遊ぼうぜ」
海斗がそう言った時……ふいに真緒たちに話しかけてきた人物がいた。
「あら? 誰かと思ったら真緒くんじゃないの……久しぶり元気だった?」
発泡スチロールの容器を脇に抱え、ストローハットにカニ柄模様のワンピースを着たビーチサンダルの涼しげな成人女性が、セミの声が響く中……微笑み立っていた、女性を見て真緒が言った。
「あっ、人間に化けた侵略宇宙人のお姉さん……えーと、確か昼型活動ガニィ星人で妹の……」
「『茜』よ、真緒くんたち 今日はみんなで海水浴に来た? のよね?」
茜は我慢大会のような格好をして果実に支えられているナメ子と、浮き輪を体にハメて土星のようになった満丸を交互に見る。
「うん、そうだけれど」
海斗が真緒の腕を指先でツンツンして耳打ちする。
「おまえ、いつの間に美人宇宙人姉妹と仲良くなったんだよ」
「妹の茜さんとは昼間のゲーセンで狐狸姫のポンポコ音ゲーで。姉の藍さんとは夜のゲーセンで、狐狸姫のぬいぐるみキャッチャーゲームで仲良くなった」
「そっか」
海斗はそれ以上詮索しなかった。
茜が言った。
「良かったら、うちの海の家を休憩場所で利用しない? 週末には地球侵略の資金集めのために、お姉ちゃんと一緒に海の家をやっているの──真緒くんだったら、一日の利用料金半額でいいから。シャワールームやロッカー。更衣室や荷物預かり。サマーベットやビーチパラソルをレンタルするならまとめて無料でいいわよ」
「じゃあ、お願いしようかな」
真緒たちは、ガニィ星人の海の家へと向かった。
海の家では調理場で夜型活動ガニィ星人の姉……『藍』がビキニ水着の上にTシャツ姿で、半分眠りながらフライパンを振っていた。
「ただいま、お姉ちゃん……そこで真緒くんに会って連れてき……こらぁ! 眠るな! 働け! カニ炒飯焦げてる!」
目の下にクマを作った藍が顔を上げる。
「お願い……茜、少し眠らせて……昼間は眠いの……ぐぅぅ」
「眠るな! 働け! まったく、お姉ちゃんは昼間はグーグー眠ってばかりで」
「だって、あたし夜型活動の宇宙人で……あら、真緒くんいらっしゃい……ぐうぅ」
「だから立ったまま眠るな! 真緒くん何か食べたいモノがあったら注文して、お姉ちゃんに作らせるから──はい、これメニュー」
差し出されたメニューには、カニラーメン・カニカレー・カニ丼・カニの甲羅揚げ・カニ焼売・カニすき焼き・カニ鍋・カニ味噌などなど……オールカニ料理が並んでいた。
足元をよく見るとカニたちが横歩きをして群れている。
カニの海の家だった。
「なんか、カニの料理ばっかだね」
「うちの海の家は、それが売りだから……今なら『カニ鍋』がオススメよ。うちのカニ鍋は椰子ガニだから、いいダシが出るのよ……お願いカニ鍋を注文して、夏の海岸で誰もカニ鍋を注文する人いないの……注文しなさい、注文しないと宇宙怪獣で都市を襲撃するわよ」
最後の方はカニ鍋哀願から恫喝に変わっていた。
ニッコリと笑う真緒。
「じゃあ、そのカニ鍋を……みんなもそれでいい?」
「夏に鍋か……真緒らしいな」
「あたしとナメ子は水着に着替えてから……百々目先生も先に着替えますか?」
「そうね、ナメ子さんの状況を見ると水着に着替えた方が良さそうね」
ナメ子は果実の腕の中で半分溶けたように、グッタリしていた。
いつの間にか海パン姿に浮き輪の満丸の腹が、グーグー鳴る音が聞こえてきた。
「じゃあ、海斗とボクも水着に着替えるから……満丸くん、カニ鍋出てきても一人で食べたらダメだよ。鍋は飲み物じゃないからね」
「わかった」
灰鷹満丸は、時々料理を流動食いするクセがあり……この間は緋色軒の餃子一皿を、酢醤油とラー油で一気に飲み干した逸話がある。
数十分後……男子更衣室で水着に着替えた真緒と海斗が出てきた。
真緒は予想通り、アニメの閃光王女狐狸姫がプリントされた海パンを穿き。
海斗は真っ白なフンドシ姿だった。真緒が海斗に訊ねる。
「海斗はフンドシなの?」
「夏、男、海、と言えばこれが定番だろう……なんでもサメは自分より長いモノには襲ってこないらしいから、サメに囲まれた時に海中でフンドシをヒラヒラさせていれば安全だからな」
「さすが海斗だね」
ツッコミどころ満載だ。
真緒と海斗のやり取りを服を着たまま、聞いていた雷太が鼻で笑う。
「甘いな、男の夏はこれだぁ!!」
いきなり、スッポンポンになる雷太、騒然となる海水浴場。
ホイッスルが鳴り響き、海水浴場のバイト監視員が走ってきた。
「こらぁ! 裸体で遊泳は禁止だ!」
ニヤッと笑って、監視員に向かって振り返る雷太。
「心配ご無用、ちゃんと穿いていますよ」
雷太の股間には、ホタテ貝が張りついていた。
「局部が見えなければ問題ないでしょう」
「うむむっ、絶対剥がすなよ」
監視員は去って行った。
男子に遅れて数分後に水着に着替えた女子が出てきた。
最初に現れたのは百々目一色だった。
「お待たせ……ちょっと地味かしら?」
一色の水着は、ラメが入ったザクロ色をした、ハイレグカットのヒモビキニだ。
「一応マイクロビキニも、用意してはいたんだけれど……腰骨辺りにある目に、ヒモが喰い込むと痛そうだから今回はやめておいたの……このビキニ、似合っているかしら?」
「魅力的なビキニですよ、百々目先生」
「ありがとう、真緒くん……プロポーションに自信が無いから、少し迷ったんだけどね」
一色に続いて果実とナメ子も水着姿で出てきた。
果実は、首の後ろでヒモで結んだホルターネックタイプの黒いワイヤービキニで、腰にパレオを巻いている。
ナメ子の方は、ワンピース型の水着で腰のボトムの部分にフリルのスカートがついている……さらにナメ子は水着の上に、クリアー素材の戦隊強化服とシースルーな戦隊マスクをしていた。
ナメ子の水着を見て真緒が言った。
「東名さん、似合っているよ……かわいいよ」
顔を赤らめるナメ子。
「そ、そうか……オレ、こんなの着たの生まれて初めてだから……お世辞でも嬉しい」
真緒の言葉に果実は横を向いて「あたしも、水着着ているんだけれど」と小声で吐き捨てる。
砂浜に体育座りをした雷太は。
「女子が誰も、ホタテ貝に、ツッコミしてくれない」と、いじけた。
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