僕と私の転生事情

日向こなつ

第1話

「キリア、そろそろここを切り上げて屋敷に戻らないかい?一刻も早く冷たい水を飲まなきゃ倒れてしまいそうだよ。」


共に作業をしていたガーデナーのアルトさんに声をかけられる。

確かにこの炎天下の中作業していたら、熱中症になってしまう可能性がある。

私は熱中すると時間や周りを気にせず作業を続けてしまう事があるので声をかけてくれて助かった。


「そうですね、だいぶここの花壇も整いましたし……」


急に立ち上がったせいかふらっと目眩がし、目の前が真っ暗になった。

遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえるがそのまま体が落ちていく。


このまま倒れてしまったらせっかく植え替えた花達を押し潰してしまうなどと思いながら。



暗闇の中私は……。

いや、僕は前世の記憶を思い出した。

前世の僕は高校生であった。

何も取り柄のない男子高校生で、成績も中の中。運動能力もそんな感じ。唯一、他の人とは違うなと思う事といえば庭いじりが好きな事。母親が花など好きだったので、一緒に花を植えたり、野菜を育てていたりしていたくらいだ。

そんな僕は17歳で亡くなった。死んだ原因は交通事故だ。

その日は妹に頼まれた予約のゲームを取りに帰った時に事故にあった。信号無視のトラックが歩道に突っ込んできたのだ。

平々凡々の僕が得など積んでいなく、このまま死んでいくんだな。思い残す事はそれ程ないけどせめて妹にゲームを渡してからがよかったのになと思いながら意識が遠のいていった記憶まである。



そんなこんなで今はキリア・ルートンとして生きているらしい。記憶を思い出したばっかりであまり現実味がない状態だが、この世界での僕はお嬢様専属に仕える従者である。

しかもこの世界は妹が熱中していた乙女ゲームの世界なのだ。

仕えるお嬢様はゲームの中のヒロインだ。

珍しい白銀の長髪に、目は赤目でぱっちりであり、笑顔は可愛らしい。しかしこのヒロイン最終的には死ぬんじゃなかったけ?妹曰く救いようのないゲームとか言ってたな。なんか全攻略者がヤンデレでどれもバットエンドに突き進んでいくゲームとか言ってた記憶が……

しかもルートには従者が巻き込まれて死ぬんじゃなかったけ?


なんというゲームをやっているんだ妹よ……。


今、そんなヒロインこと、お嬢様に壁ドンされています。

可愛い女の子に壁ドンされて嬉しいけど、実際にされるとちょっと怖いな、なんて。

アルトさんが心配してるだろうからなるべく早く顔を見せたいのだが退いてくださいとも言えそうにない。


「お嬢様、どうされたのですか?」

僕はお嬢様から距離を取ろうと僕から見て右側、腕の下を潜って逃げようとする……。

ダンッッ

と大きな音を立て今度は足で通行を遮ってくる。

え……怖っ!僕何かしでかしました?


「……お嬢様、私何かしでかしましたでしょうか?」

僕は恐る恐る、お嬢様に問いかける。


「貴方、熱中症で倒れたって聞いたわ。」

眉間にシワを寄せながら言ってくるので、めちゃ怖い。


「お嬢様のお耳にも入ってしまったのですね。」


「……。後で貴方に塩入りレモン水を届けさせるわ。今日1日大人しくしとくことよ。」


そう言って去っていった。

何だったのだろう?僕の体調を心配してくれていたのだろうか。にしては、凄い仏頂面だったが。

まぁ、僕の身の為にもなるべく関わらずに済むようにしよう……。

しかしどうやって関わらずして済むのか。


何でお嬢様専属の従者に転生しちゃたんだよ……。


僕は肩を落として自室に戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る