第2話

――――酒場兼宿屋の『ラビットフット』。オレ達の"ホーム"だ。

王都下層地区の貧民街スラム近くにあるこの店は土地柄治安が悪く、可愛らしい名前とは裏腹に常連は俺達のようなチンピラかそれを相手にする娼婦ばかり。店主マスターも相応にガラが悪く、グラスを磨きながら客がをしないか見張りつつ、たまに怒声を上げるそんな店だ。――――


扉を開けると慣れ親しんだ喧騒が聞こえてくる。ふと、隣にいるペリペに目をやると何やら怪訝そうな表情をしている。


「……?どうしたペリペ?」


「いや、なんか知らねぇニオイがある気がしてよぉ。………新顔か?」


「確かに珍しいが、別に可笑しくねぇだろ。サッサと行くぞ。」


"それもそうだな"と言い、鼻を動かすのを止めたペリペをいつものテーブル席に着かせる。


(アイツがペリペが言ってた新顔か?………黒髪、ね。)


2人分の料理を取りにカウンターに近寄ると、カウンター席の隅に見慣れない男が居た。

襤褸切れのような外套を羽織った黒髪の男。黒髪は数が少ないだけで別段珍しい物じゃない。

俺の親父がそうだったように国家事業で召喚される異世界人、転移者はそのほとんどが黒髪らしい。

この国"ジェイホーク"自体、多数の転移者から異世界の文明や技術を取り入れて急速に成り上がった国だから、その分転移者の子孫も大勢いる。先祖返りで黒髪になるヤツだって中には居る。

そんなことを考えていると俺の視線に気づいた男がこちらを向く。

見すぎたかと思い謝罪の意味を込めて目礼するとちょうど店主マスターが料理を持ってきた。


「ホラよ今日の分のメシだ。いつも通り代金は部屋代にツケとくからな。」


「あぁいつもワリぃな。」


料理を受け取り、もう一度男に視線を向けるが、こちらを見ずに黙々と酒を飲んでるだけだった。


「待ってたぜぇ!もうハラが限界!!」


テーブルに戻るなりペリペは俺の手からメシを奪うとすぐに食い始める。

それにつられ俺も席に着き食い始める。


「そうだ、今の内に言っとく。今夜22時にいつもの農園だ。世話役に呼ばれてる。」


「あぁ?ずいぶん急じゃねぇか。ってオレも行くのか?!」


「当たり前だろうがオメェも来んだよ!……おそらくコミュニティへの入団に関してだろ。あんだけ金をアゲてんだ、そろそろのはずだしな。」


「ハァ…行きたくねぇなぁ………クセェんだよなぁあの野郎……人間のオメーにゃわかんねーだろーケドよぉ」


「文句ばっかり言いやがって……俺は哀しいぜペリペ。尻尾振って走り回ってた野良犬時代あの頃のオメェはもういねぇんだな…。」


「そりゃこっちのセリフだ!いっっつも眉間にシワ寄せてよぉ!オレに追っ掛け回されてキャッキャッしてた純真無垢なオメーは何処に行っちまったんだぁ?」


「あぁ!?…もういい…とにかく!今日はオメェも来てもらうからな。」


「チッ…わぁったよ行きゃイイんだろ!?その前に風呂だ!風呂!22時ならまだ時間あんだろうが。」


「抜け毛で排水管詰まらせんなよ?話聞かねぇオメェの代わりに俺がドヤされんだからよ。」


「しょうがねぇだろ?換毛期なんだからよぉ。………オウおやっさん!風呂借りるぜ!」


「この毛玉野郎!!今度詰まらせたらその尻尾ブラシ代わりにしてやるからな!!オイ聞いてんのか!?」


店主マスターとペリペのやり取りを聞きながら食事を進める。

ふとさっきの男が気になりカウンター見る。男はいつの間にかいなくなっていた。

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