大晦日の鳥居

 ぼくは懐中電灯を持って夜の道をウキウキ歩く、ポツンポツンと家が立ち並び畑と家が互い違いにある様な田舎の細いアスファルト、大晦日の夜はお宮さんにいくのが決まりだ。


「お母さ~ん、早く早く!」


「はいはい、走らないの!」


 お母さんがぼくの後をゆっくり歩く。


「あっ、おばちゃんこんばんは……あっ! よいお年を~」


「こんばんは、よいお年を」


 ぼくはもうお宮さんから帰る途中の隣の家のおばちゃんに挨拶する、「明けましておめでとう」にはまだ早いから「よいお年を」だ。


「2人ももう帰るの?」


「うん、もう帰るよ」


「あたしも~~」


 おばちゃんの家の一つ年下の女の子と三つ年下の女の子の姉妹に話すと帰るの途中だった。


「甘酒飲んだ?」


「うん飲んだよ」


「美味しかった?」


「うん美味しかった♪」


「あたしものんだよ、あまざけ」


 一つ下の女の子は少しおしゃまなお姉ちゃんの笑いをして、三つ下の女の子は舌をペロリと横に出して満面の笑顔でそう答えた。


「ぼくも早く行かなきゃ」


「いっぱいにあるから大丈夫よ坊や」


「じゃね~~お兄ちゃん♪♪」


「じゃね、にーにー♪」


 おばちゃんはああ言ったけど無くなったら大変だ、ぼくは急いでお宮さんに向かう、お母さんはおばちゃんの所で立ち止まり何かを話しているようだった。


「あっ! 灯りだ」


 何時もは夜暗いお宮さんの入り口は石の大きな鳥居があり、ザラザラのコンクリートで舗装された浅い坂道になっていてその先に小さな石の階段と両脇に石の灯籠、更に先にお宮さんの灯りが見えていた。


「苔とか生えてるから気をつけないとな」


 ぼくはそう言って鳥居をくぐった。


「なんか不思議な感じだな」


 昼にはよく遊びに来るそのお宮さんはオレンジの灯りに照らされて、まるで異世界にでも迷いこんだかの様に幻想的な雰囲気になっていた。


「あらやだ、どうしたの坊や?」


 ?


 知らない女性が話しかけて来る。


「んん? 何でこんな所に子供が?」


 ??


 今度は男性が声をかけて来た。


「なんだボウズ、迷いこんだのか?」


 ???


 まただ、小さな村なので知らない人は殆ど居ない筈なのに、さっきから知らない人ばかりに合う。


「おい小僧、神社の参道では真ん中歩いてはいかんぞ」


「あっ、そっか、ごめんなさい」


 ぼくはお母さんに聞いた話を思い出す。


「真ん中は神さまの道だった」


 ぼくはおじさんにそう言われそれを思いだし真ん中を歩く知らない大人達を避けてケイダイにたどり着く。


「なんかお店がいっぱいある」


 何時もなら町内会のひとが甘酒や豚汁をを振る舞う程度なのにまるで縁日の様な出店がケイダイをずらりっと囲んで居た。


「あっ、お金、お母さん? あれ? お母さんまだ来てないや」


 美味しそうな食べ物がいっぱいあるけどお金無いし、取りあえず甘酒もらおかな?


「おいお前さっきの小僧だな、ここでは何も食べん方が良いぞ」


 さっき参道で話しかけて来たおじさんがなんか言ってる?


「食べちゃダメなの?」


「ここの物を食べると帰れなくなるぞ」


 ? 何か良く解んないけど食べちゃダメらしい……。


「大丈夫、甘酒は飲み物だから」


「はて? そう言う感じの決まりだったけか???」


 おじさんは首を傾げて考えている様子だったがぼくは気にせず甘酒をのんだ、甘くって暖かくってとっても美味しかった。


「あらあら」


「大丈夫かの?」


「この子どうするよ」


「人の子供など知らん」


「そう言う訳には」


「自業自得だろうに」


「いや、我らの管理責任が」


「お主、人間みたいな事を言う様になったな」


「この辺りも人が減っておるからな、子供は大事にせんと」


「じゃあ取りあえず甘酒を吐かせて放り出すか?」


「無理やり?」


「仕方あるまいこちらの物を口にしてしまったのだから」


 なんだかぼくの回りに居た大人の人が騒いでいる


「眠い、寝る」


 ぼくはとっても眠くなった。


「おい小僧! 寝るな! 起きろ!!」


「甘酒ってアルコール何パーセントの酒だっかの?」


「なに言ってるの? 甘酒はノンアルコールの清涼飲料よ!」


 ぼくは近くに居た一番美人のお姉さんにだっこしてもらって眠った。



◇◆◇◆



「明けましておめでとうございます♪」


 ぼくは隣の家の一つ年上のお姉ちゃんと一つ年下の女の子に新年の挨拶をする。


「明けましておめでとう……」


 隣のお姉ちゃんも新年の挨拶をする。


「明けましておめでとうございます……」


 一つ年下の妹も新年の挨拶をした、2人共普通に接してるが何かがおかしい?


「良い、目を話しちゃダメよ」


「うん、解った!」


????


 朝ぼくが何時もと変わらないぼくの部屋で起きると、それに気づいたお母さんは目を覚ましたぼくに突然抱きついてギュットして離さなかった。


 ?????


 何だか解んないけどみんな二つずつ年を取っていた、いや違うや、あの日大晦日に消えたぼくが突然二年後のお正月に戻って来たと言う事らしかった。



 あの鳥居がダメだったんかな~~?



 ぼくはなんとなくそう思った。

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