第32話 生徒会と深まる絆

「ラインで済むのではないでしょうか?」

 鬼瓦くんの目の付けどころはシャープ。

 やはり鬼ともなると人の想像を軽々超えていく。

 鬼神しっかり。


 話は15分ほど前にさかのぼる。



「おーい。みんな、ちょいと聞いてくれー!」


 今日も放課後は大忙し。

 毬萌は書類にハンコをペタペタ。

 花梨は俺と一緒に週明けに配布する資料の作成。

 鬼瓦くんは数字の羅列を整列させるのに余念がない。


 そんな張り詰めた空気をちょっと入れ替えようと、俺は声を上げた。

 ちゃんと用事もあったので、これは一石二鳥。

 落とした鳥で今夜はごちそう。


「浅村先生がな、緊急の際の連絡網作ってくれって言うんだよ」

 浅村先生は、生徒指導担当教諭であり、俺たち生徒会の監督教諭でもある、30代前半の爽やかな男性。

 女子生徒からの人気も高く、男子生徒からも慕われる人格者。

 既婚者であり、子供はまだいないものの、夫婦仲はすこぶる良いとか。


「とりあえず、俺が先生から第一報を受ける事にしといたから、あとの順番をみんなで決めてくれるか? 休憩がてら、ちょっと話そうぜ!」

 副会長のくせに、第一報を受け取るな?

 そうは言うけども、会長の毬萌に任せるのは危なっかしいにも程があるぞ。

 アホの子モードで重要情報を聞き漏らしたら、大惨事。


「桐島先輩の次に誰が連絡を受けるかってことですよね? はい! あたし、次が良いです!」

「おう。そうか、花梨が二番手か」

「コウちゃん、コウちゃん! でも、立場的にはわたしが先に情報を得るべきじゃないかなって思うんだ!」

「おう。なるほど。確かにそれも一理ある」


「ゔぁあぁぁっ! 桐島先輩、どうか、二番は僕に! 僕におでがいじばず!! ……ここだけの話、まだ冴木さんや毬萌先輩と一対一でお話をすると緊張して……」

「ああ、そうなのか。そりゃいかんな」


 気付けば、3人が俺の取り合いをしている。

 おいおい、よせよ。

 みんなが俺のことを好きなのは分かったが、俺の体は一つだぜ?


 ここで、話は冒頭に戻る。

「あの、桐島先輩。僕、気付いてしまったのですが……」

「おう。俺の魅力にか?」

「いえ。連絡網を作るまでもなく、ラインで済むのではないでしょうか?」

「おう。……そうか」


 浅村先生からの連絡は電話であり、先生から「連絡網を作っておいてね」と指示されたことも手伝って、俺はいつの間にか、電話で情報伝達すぺきと思い込んでいた。

 そうか、普通にグルーブラインで伝えたら良いのか。

 便利な時代になったね。


「みんなーっ! グループ作ったよぉー!!」

「あ! さすが毬萌先輩、仕事が速くて尊敬しちゃいます!」

「ふふーっ、これでいつでもみんな一緒にお話しできるねっ!」


 俺の取り合いが終わってしまった。

 しかし、これまで個別の相手とラインでやり取りすることはあったが、グループでという事になると、俺にとっては初体験である。

 クラスのグループとかないのかって?

 知らねぇよ! 知らねぇから、ない方向であって欲しいよ!!


 そして、その日のノルマをキッチリこなした俺たちは、帰宅するのだった。



 夕飯を食べてリビングでテレビを見ていたところ、スマホが震えた。

『やほーっ! みんな、ご飯食べたーっ?』


 毬萌であった。

 そしてヤツの企みはすぐに分かった。

 グループでどんどんトークして、生徒会の仲を深めようと、そう言うアレだな?

 ならば乗ろうじゃないか。そのビッグウェーブに。


『食ったぞー』

 そして追撃のポ●タが出動。

 ご飯食べているタヌキが居て助かった。


『あたしも食べましたー! ビーフストロガノフでした!!』

 そして花梨は写真付きの応答である。

 ビーフストロガノフが何なのかはよく知らんが、なんか美味そうな、と言うか、ホテルで出て来そうな写真。

 これ、アレでしょう? 映えるとか言うヤツなんでしょう?


『僕は今からです。先ほどまで、明日のオヤツを作っていました』

 鬼瓦くんも写真付きである。

『スティックラスクのクリーム添えです。お口に合えば良いのですが』

 映えてる。鬼瓦くんも映えてる。

 そのくらい、俺にだって分かる。


『なにそれっ! すごい美味しそうーっ! むむむっ、明日まで我慢できないよぉー!』

『なんであなたは普通にその外見でそんな素敵なお菓子を作るんですか!』

『ええ……。酷いよ、冴木さん……』

『褒めているんです! もぉー! 詐欺ですよ! あたしが女子力低いみたいにじゃないですかぁー!!』


『あれっ? コウちゃーん? どしたのーっ? おトイレかな?』

『お風呂かもしれません。既読が付きませんので』

『せんぱーい! お話しましょうよー!!』


 トークに参加せず何をしているのかって?

 ふふふ、俺だって写真の一つでもアップしようと思ってな。

 映える被写体を探していたのだ。


『俺ぁデザートにこいつを食べたぜ!』

 すかさず写真をポチリ。

 どうだ、しかも俺の手作りスイーツだぞ。

 さぞかし絶賛の嵐が起き怒る事だろう。ふふふふ。



 なぜ既読が付いたのに誰も何も言わないんだい?



 すすり泣いていると、ポンポンとメッセージが湧いて来た。

 そいつを待ってた!


『コウちゃん、発泡スチロールはデザートじゃないよ?』

『あ、杏仁豆腐ですよね!? なんだか形が不思議ですけど……。ねっ!?』

『外国のお菓子でしょうか。僕も見た事がありません』



『牛乳寒天だよ!! 中に入れるものがなかったから、プレーンなの!!』



 俺の家と他メンバーの食事格差が深刻な様相を呈していたが、そちらは目をつむる事でどうにか心を折らずに済んだ。

 今は、どんどん深まる俺たちの絆にだけフォーカスを当てておきたい。

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