遠征計画

 武具店に行くと、買うまでもなく、町からの支給品が届いていた。


 アーマードラゴンプレート


 ドラゴンの中でも特に皮膚が固い種族で、倒すとなると50人パーティーが必要だろう。


 話を聞くと、ワンサウザントマスターが半年前に仕留めたもので、5人分のプレートができあがり、その第1号がこの鎧ということだ。


 試着してみる。


 左肩には大きくドラゴンの鱗が突起するが、手を動かすのには邪魔にならない。


 胸、腹、背、腰、太ももまでドラゴンの黒い鱗で覆われ、思ったよりも軽い。


 試しに剣を振ってみるが、問題なさそうだ。


 「どうやら遠征計画があるみたいだな」店主が話しかける。


 「遠征?」


 「ああ、カース、お前もメンバーに選ばれているらしいぞ、このプレートは遠征メンバーに選ばれた者のためのものだ」


 「どこを攻めるんだ?」


 「この町から南へ馬車で5日ほどの所にある砦を攻めるらしい」


 「あそこには魔人が10匹はいたんじゃないか?大丈夫なのか?」


 「亜人も10人はいるそうだな」


 「なるほど、きつい戦いになりそうだ」


 「そのための装備だ、頼むから生きて帰ってくれよ、この鎧作るのも大変だったんだぞ」


 「ああ、それは頼まれなくてもそうする」


 

武具店を後にして、アデラの家に戻る。


 手紙が着ていた。町長からの呼び出しだ。


 明日の午後に来るようにとのことだった。


 いよいよかと思った。


 魔人から人類を解き放つ、そのための戦いをしたかった。


 多分小さなころからずっと、ラーナの事件があってからはより一層。


 体が震えた。


 「カース、落ち着け、砦を落としても、大局が変わるわけではないぞ」


 「そうだけど、でも、最終戦争以来、そんなことが出来た人はいなかったから」


 「今回は戦力が揃っているな、ワンサウザントマスター、カース、そして私、シロもヒーラーとして優秀だ」


 「勝てるかな?」


 「どうだろうな、まず勝てる、はずだ」


 「なにか気になることが?」


 「あの砦にはビッグと呼ばれている巨大な魔人がいてな、砦の主だが、苦戦するぞ」


 「そんなのがいるのか」


 「ああ、魔人すら喰ったことがあるということだ、都には置いておけなくなり、砦に追放された」


 「手ごわそうだね」


 「ただ、それでも都の魔人からすればたいした強さではないだろう、この前の使者よりは格段に強いがな」


 「なるほど、魔人にも強さのランクがあるのか」


 「カースは、魔人の血を吸った剣の力で少し強くなったみたいだな」


 「ああ、力が湧いてくる」


 「少し、手合わせしてみるか」


 「あ、お願いします」



 2人は庭で向かい合った。


 アーマードラゴンプレートに身を包み、剣を握る。


 今までとは比べ物にならないほどの防御力と攻撃力だ、これなら都の魔人でも倒せるかもしれないと思えた。


 今日はアデラのほうも少し違った。両腕と両足に風魔法のつむじ風をまとっている。攻防に効果がある魔法だ。


 カースが飛び込んで打ち込む。


 速い。


 アデラはつむじ風をまとった腕をクロスさせ受け止める。


 剣はそれ以上すすまない。


 一度、距離を取って引く。


 そこにアデラが距離を詰める。そこからの回し蹴り。


 見事に腹に決まる。


 ただ、プレートでダメージは軽減しており、どうにか立てる。ノーダメージというわけにはいかないようだが。


 体勢を立て直すと一直線にアデラ向けて飛ぶ。


 一撃がアデラの顔の横を通り髪に触れる、髪の毛が数本切れる。


 そこにアデラのカウンターの拳が入る。プレートの上からでも十分なダメージだった。カースは失神して、今日の稽古もここで終わった。

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