【完結】2019年のクリスマス・キャロル

かしこまりこ

第1話 クリスマス・イブ

 クリスマスの一週間前に、5年間一緒にいた彼女に振られた。よくある話だ。


 8年間、俺の全てをささげたバンドが解散した。これも、よくあることだ。


 昨日、俺が10年以上アルバイトをさせてもらっていたレコード屋が潰れて失業した。これも、よくある話なのだろう。


 三畳一間のボロアパートで、クリスマス・イブに、昼間から一人で酒を飲んでいる。俺はダメ人間だなと思う。そんなやつは世の中に、掃いて捨てるほどいるのだろう。善良で優秀で金を持っている人たちが胸を痛めるくらいに。


 テレビを見ても、本屋に行っても、サクセス・ストーリーで溢れている。ダメ人間は脇役か、成功した人間の過去の姿かのどちらかだ。


 インスタを見れば、高校時代の彼女が結婚式の花嫁になって写っている。大学の同期がパパと呼ばれている。俺のバンドのメンバーだったあつしが、注目バンドのドラマーとしてネットで紹介された写真が載っている。俺は携帯を伏せる。でも、暇にまかせてまたスクロールしてしまう。


 世の中から、ダメ人間は死ねと言われているような気がする。


 テレビでクリスマス・キャロルの映画がやっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る