君は本当のヒャダインを知らない

結城カザミ

ヒャダイン

第 1回   ヒャダインバグ 

 ヒャダイン・・・最初に断わって置くがこれは、ミュージシャンの前田何某氏のことではない。そう、これはドラクエに登場する呪文のことである。

  

 あれ?そんな呪文ないよね?なんて言ってるそこの貴方はきっとお若いのだろう。

また、懐かしいけど なんだっけ?と思い出せないライトユーザーの皆さんも、

 そんな方々にこそ、知って頂きたいのが今回のテーマである。

 

 ドラクエシリーズにおいて後のシリーズに続く基礎要素が確立したのは3作目のドラゴンクエストⅢ~そして伝説へ~からである。

 

 呪文もその例外ではなかった。本作が優れていたのは、呪文ごとに系統を設けたことにある。

 系統というのは、例えば炎系の攻撃呪文ならメラ系で、メラ・メラミ・メラゾーマと、威力により3段階構成になっているというものである。同じく爆発系ならば、イオ・イオラ・イオナズンといった具合である。


 前作であるドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々~では、基本的に極一部を除けばは呪文に系統という概念がなかった。

 例えば、ムーンブルクの王女が覚える攻撃呪文にイオナズンがあるが、イオやイオラは存在しなかったのである。同様に、即死呪文であるザラキも登場するが、その下位であるザキは存在していなかった。

 このように、元々、存在した単発の呪文も含め、ほぼ新規で練り起こされたのが

このⅢでの呪文だったのだ。そして、その数なんと60種類! これは前作(22種)の3倍近い数字であった。

 

 さて、これだけ呪文が大幅に増えたのこと自体は良い。しかし、問題はこれらすべてがしっかりと機能していたのか? もとい、意味を成していたのかということである。

 本作で初お目見えし、その圧倒的火力で高威力な単体攻撃呪文の代名詞となったメラゾーマ(メラ系)や、それまで回復呪文といえば単体仕様しか存在しなかったところに全体回復概念を持ち込んだホイミ系亜流ベホマラーなど、この作品で華々しい成果をあげて華麗にデビューした呪文は数多い。

 しかしながら、光あるところに、必ず影があるように こうした数多くの呪文の傍ら、このドラクエワールドから消えていった呪文たちが在った。

 作品から消える・・・それはつまり現実社会で例えるならば、解雇であり、戦力外通告ということになろう。

 一体、そうした呪文たちは何が問題で姿を消さざるを得なかったのかについて筆者の思い出を交えながら語っていこう。

 

 今回、最初のテーマに選んだヒャダインもまさにこうした不遇の呪文の1つである。

 このヒャダインという呪文は、他の系統呪文と共に、本作Ⅲで初登場した氷系呪文ヒャド系の準最強呪文として実装された。しかし、このヒャドという系統、他の攻撃呪文とはそもそも違った特殊な位置づけにあったことは、ご存じだろうか?

 

 本作Ⅲでの呪文を使える職業といえば魔法使いと僧侶である。

 基本的にはこの2職で本作品登場の9割以上の呪文を担っているのだ。

 

 その内訳は、魔法使いが主に攻撃系や移動補助などを習得し、僧侶は逆に回復系統などバックアップ呪文を習得するというように分化してあるのだ。それぞれが攻撃、回復のエキスパートということになる。

 お互いの習得呪文が一切被ることがないというのも、また本作の特徴だといえる。 

 尚、僧侶の回復呪文と魔法使いの攻撃呪文の両方を全て習得使用できる賢者という職業は存在するが、この賢者専用オリジナル呪文はない。

 その他、本作で呪文を使用できるのは主人公である勇者だが、彼はこの魔法使いと僧侶の習得する呪文のうち極一部を習得でき、他に勇者専用呪文を5種だけ持つ。

 逆にいえば、この5種以外はほぼすべての呪文が魔法使いと僧侶の独壇場なのだ。

 

 さて、上記でおわかりのように、攻撃呪文の使い手は魔法使いである。魔法使いは、バギ系(僧侶専用)、ディン系(勇者専用)以外のすべてのダメージ攻撃呪文を習得するまさに攻撃のスペシャリストなのだ。

 この魔法使いが扱う攻撃呪文は基本的に3段階構成となっていて、その効果範囲も系統ごとに決まって割り振られている。

 例えば、先述したメラ系であれば、メラ・メラミ・メラゾーマの3段階で、その効果範囲は敵単体となっている。これは、単体にしか効果はないその代わりに高威力という長所と短所を兼ね備えているわけである。(ただし初歩のメラは弱い)

 他には唯一1作目から登場してきたギラ系も、ギラ・ベギラマに加え、最上位にベギラゴンが仲間入りし、こちらは敵グループ攻撃という範囲呪文として新定着。

 そして、イオ系が全体攻撃の系統というような具合である。

 では、同じく魔法使いが習得し、このヒャダインを包括するヒャド系はどうだったのかというと・・・

 ヒャド・ヒャダルコ・ヒャダイン・マヒャド このようにヒャド系は4段階の威力設定が設けられていたのだ。その時点で他と違うのがわかる。あれ?なんで1つ多いんだろうと疑問に思ったものだ。

 しかし、違うのはこれだけではない。その効果範囲がバラバラなのである。

初歩であるヒャドは単体攻撃呪文だが、ヒャダルコはグループ攻撃、続くヒャダインが全体攻撃、そして、最上位マヒャドでは再びグループ攻撃に戻るのだ。

 おわかりだろうか。他と足並みが揃っていない印象を受けないだろうか?

少なくとも筆者は当時子供心にそう感じた。なんかもっと揃えたらいいのにと


 しかし、これもじっくりと落ち着いて考察すれば当然のことだと気づく

メラ系が単体、ギラ系がグループ、イオ系が全体を担当したら、他はないのだから

そう、ヒャドの入り込む場所はなかったのである。一応、バギ系もグループ攻撃で、ギラ系とキャラ被りしていてもOKなのは、その使い手が僧侶だからという話で、

同じ使い手で範囲被りはやはり面白くないのである。

 そこに、何かひと工夫を・・・と思えば、このように段階ごとに範囲が変化するというのはなかなかに斬新かつ面白いアイディアといえるのではないか。

 つまり、敢えての結果なんだよなと、そう思えるようになったのは自分が大人になったからかもしれない。

 しかも、よくよく考えれば、初歩のヒャドは単体だが習得レベルが低いわりに高威力で使い勝手も良かった。単純にメラの3倍は与ダメする。それにヒャダルコについても、同じグループ攻撃のベギラマより一回り強く、また効果のあるモンスターもちゃんと住み分け(効くか否か)できていたように思う。ともに序盤から中盤にかけてとても頼れて尚且つ使用頻度も高い呪文なのだ。

   

 しかし、ここからが問題であった。初めてプレイしたときこ衝撃は今でも覚えている。ヒャダルコのつぎに習得したのは、なんとマヒャドだったのである。

 

 え?ヒャダインじゃないのか!? 小学生だった筆者は画面の前で唖然とした。

実は、Ⅰを除けば、筆者のドラクエ体験はⅣが先で、ⅢはⅣをクリアしたあとに体験したのだ。これは仕方がない。Ⅲ発売の88年当時、筆者はまだ就学前でファミコンすら所持していなかったのだから。その意味で順序は逆になったが、その分 ドラクエをかじっていた筆者は、すぐにこの異変に気付いたのである。

 そう、次作Ⅳでは、たしか魔法使いブライがヒャダルコの次はヒャダインを覚え

ることを知っていたから

 ん?これは、バグなのか仕様なのか?当時その意味もよく知らず使っていたこんな言葉が浮かぶ。もし、自分のカセットだけの現象だったらどうしようという不安も頭を過った。 

 後日、既に発売されていたエニックスの公式ガイドブックを友人から借りて読んでみたが、そこにはしっかりとヒャダインを先に習得する旨が記載されているではないか。しかし、安心したのは、その友人もまた、筆者と同じ現象を体験したということだ。

 それから、学校で何人かにこの事象について聞いてみた。発売から数年が経過していたとはいえ、当時現役で、本作を遊んでいた子供たちが多かったのは流石ドラクエである。すぐに裏付けはとれた。皆、マヒャドが先だった。

 そこで得た筆者なりの結論はこうだ。これは開発者のミスなんだろう。その証拠に

公式ガイドではしっかり記載しているわけで、何より次回作であるⅣでは、その通りに修正されているではないか。

 なんだか、子供心に、大人のズルさ?を感じてしまったのであった。

 

 さて、レベルはまだ30手前、思わぬタイミングで、氷系最強呪文マヒャドを習得してしまったわけだが、その後僅か数レベルを上がったところで、今度はヒャダインを覚えたのであった。

 なんだ 結局覚えるには覚えるみたいだな と何故かホッとしたのを覚えている。

 

 この時点では、まさかこの呪文が、ドラクエの歴史から消え失せることになろうとは思ってもいなかったのである。

 

 


 

 

 

 

 

 


 

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