神は遊戯(ゲーム)に飢えている。

細音啓@アニメ化『神は遊戯に飢えている』

Chapter1 ゲームスタート

神の遊戯その1「神ごっこ」

第0話 ゲームの始まり


 隠れんぼ、という遊戯ゲームをご存じだろうか。


 好きな場所に隠れる「子」と、それを見つける「鬼」の二役で遊ぶ、実に単純明快で、誰でも一度は経験のある遊びである。

 そう、そして。


 この世界には、こうした遊戯ゲームでヒトと勝負したい神々が無数にいるのだ。


 一つ例を紹介しよう――


 はるか太古のこと。

 隠れんぼの最中に海の底に隠れたきり、うっかり最高に愉快でドジな竜神を。


 その神さまが目覚めた時から、きっと、この物語は始まった。



 ◇



 北の大寒波地域レイアス=ベルト。

 史上一度として溶けたことのない氷の秘境。ぶあつい氷壁が山のようにそびえ立ち、訪れる冒険者の行く手を阻む。 


 その一角で――

 吹きすさぶ吹雪にまじって。

 氷壁を切りだす作業にあたっていた探検チームから、驚愕の声があがった。


「出てきたぞ! 化石じゃない」

「そんな……ここは氷河期の氷の中だってのに!?」


 氷壁から切りだされた巨大な氷塊。

 そこから見つかったのは、恐竜やマンモスの化石――――ではなかった。


「ヒトだ、それも少女!?」


「神秘法院に連絡急げ。ああ本部にだ!……どういうことだ。氷河期の地層からなぜ人間が出てくる!?」


 氷壁から見つかったのは、人間。

 それも明らかにまだ十代なかばの少女だった。


「……古代魔法文明の時代の人間でしょうか」

「冗談じゃない! 人間が、どうやってこのマイナス46度の氷中で原形を保っていられる。三千年あればマンモスだって化石化するぞ!」


「…………隊長……この子、生きてませんか?」


 少女は、美しかった。

 鮮やかな炎燈色ヴァーミリオンの長髪は、燃える炎のごとく煌めいて。

 現代人と変わらぬ顔つきと愛らしい目鼻立ち。わずかに朱にそまった頬は、生きているように血色がいい。


 そして一糸まとわぬ裸身。


 華奢でありながら、少女らしい丸みを帯びた身体の起伏も覗える。 

 もともと服は着ていたが、三千年という時間経過と極寒にさらされて服の繊維が

ボロボロにほつれていったのだろう。


「生きてる……ように私も見えますが……」

「馬鹿な!? くり返すがここは氷河期からの大寒波地域だぞ。防護服がなければ

三十秒で凍死するに決まっ――――っっっ!?」


「う、うわっ!?」


 隊長が大きくのけぞり、まわりの部下たちが一斉に声を上げた。


「…………」


 炎燈色ヴァーミリオンの髪の少女が目を開けるなり、勢いよく上半身を起き上がらせたのだ。

 あぐら座りの格好で、調査チームの五人を見回す。

 そして。


『……あー。しまったわ。千年? 二千年? うっかり寝過ごしちゃったかも』


 念話。

 神々の言葉による思念転送テレパシーが、少女から調査チームに向けて発せられた。


『何千年たってるか知らないけど、どうせ言語体系も文法から入れ替わってるだろうし、コッチならわたしの言葉も通じるよね?』


「まさか!?」

「隊長……これ目の前の少女が――」


『そそ。今わたしが話しかけてるの。あ、そっちは普通に喋っていいよ。それも思念転送テレパシーで解読できるし』


 裸身の少女が立ち上がった。

 肩や髪に薄く積もった雪を払い落とし、マイナス四十度という極寒の風の中、のんびりとアクビまでしてみせる。


『ふぁ……やっぱり、鬼ごっこで海底に隠れるのは失敗だったわねぇ。斬新な発想かと思ったけど、まさか寝てる間に氷河期が訪れるなんて思わなかったし』


「……君は……何者かね」


 防寒衣を着た隊長が、おそるおそる前に出た。


「私は、神秘法院ルイン支部所属、秘境探索チームの隊長ミシュトランだ。君を、

氷の中から救出した。君の身上を確認したい」


『わたし? わたし「元」神さま』


 神を名乗る少女。

 炎燈色ヴァーミリオンの髪が、それに応じたようにふわりとなびく。


『ま、でもそんなのどうでもいいからさ。わたしと遊ぼうよ』

「……なに?」


、この時代にもちゃんとあるんでしょ?』


 クスッと。

 楽しげに笑む少女が、「待ちきれない」と言わんばかりに両手を広げてみせる。


『とりあえず、さ――』


 そして。

 この世界すべてに向けて、神を名乗る少女は宣言した。


『この時代で一番「遊戯ゲーム」の上手い人間を連れてきて』







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