第8話 追放王女

 ついに明らかとなった少女の正体。

 それに対してリオンはと言うと、


「へえ、王女さんね……」


 さして、驚いた様子もなく、平然としていた。

 予想外の反応にアリシアは思わず口を開く。


「あ、あの……驚かないんですか? あの、グランディード王国ですよ?」


「実は……ずっと人里離れたところで暮らしていたせいか、世間のことには疎くてな……有名な国なのか?」


 少なくともロゼッタから教わった知識の中にその王国の名前がないことから、その国はロゼッタが隠遁生活を始めた数百年前以降に創られた国だということは分かる。


「はい、その通りです。その国の名前を聞けば、周辺諸国に限らず大陸中の人間が震え上がることでしょう」


「それを聞くと、あまりいい国じゃないように聞こえるな?」


「……そうですね。簡単に言えばグランディード王国は戦争国家です。争いを重ねることで大きくなっていきました。領土も資源もすべて争いで勝ち取り、向かってくる敵には力でねじ伏せてきました」


「物騒な国だな。……それにしてもお前」


 そう言いながらアリシアの体を観察するようにジロジロと見ていた。

 ひとしきり観察した後、不思議そうな顔をしながら再びリオンの口が開く。


「あんまり強そうには見えないな。そんな国にいるならもっとこう、体つきがガッチリしているとか、戦い慣れているとか、そういうのを予想していたけど……全然そうには見えないな」


「……残念ながら、そういうのは苦手なんです。しかもそれが原因で私、国を追い出されちゃったんです」


 などと言った後、アリシアはアハハと笑っていた。

 その様子はかなり無理をしているように見えた。


「……いったい、なにがあったんだ?」


 興味本位で質問してみると、アリシアは「おもしろい話じゃないですよ」と、前置きをしながら話し始めた。


 話によると、アリシアはなにも無能だから追放されたというわけではないようだ。


 武術や剣術がからっきしで直接相手に危害を加えるような攻撃魔法は使えないが、不思議と攻撃系の魔法以外はすべて修得している。

 リオンからしてみればむしろ有能と言える。


 しかし、力をなによりも重んじるグランディード王国にとっては前に出て戦えないことは役立たずとして扱われるらしい。

 そして数日前にこれ以上の見込みなしと家族に見放され、アリシアは国外追放の身になり、何日も彷徨っているうちにこの森に迷い込んだという。


 リオンは、その話をある作業をしながら耳に入れ、最後には呆れたようにため息をついていた。


「なんだよその話。戦場で戦えないからなんだって言うんだよ。支援系の魔法が使えるなら後方で味方を援護すればいいだろう」


(それに、あまり本人を前にして言いたくないが……政治目的の道具として使えるかもしれないのに、それすら考えていないのかよその国は)


「たぶん……他の人が今の話を聞いてもみんな同じことを言うかもしれませんね」


 そこでアリシアは、「ですが」と一言付け加えながら話を続ける。


「我が国ではそうもいかないんです。戦う術を持っていないという時点で無能の烙印を押され、ついには祖国を追い出されてしまいました……。ホント、私ってダメダメですね……」


 アリシアの身の上話を聞いたリオンは、その境遇に同情し、思い付きである提案をしてみた。


「なるほどね……。ひどい国があったものだな。……それでお前はこれからどうするんだ?」


「どうする……とは?」


「例えばそうだな……追放した腹いせにグランディード王国に復讐をするとか」


「アハハ、おもしろい冗談を言いますね。そんな度胸があったら追放されずにすんだかもしれませんね」


「もしお前にその気があるなら俺の力でどうにかできるかもしれないぞ」


「……っ」


 リオンの言葉にアリシアは思わず考え込んでしまう。


 アリシア自身、祖国で理不尽な扱いされた挙句、追い出されたことに恨みがないわけではない。

 そこに、リオンの常人離れした力を見てしまったら考えずにはいられなかった。


「ありがたいお言葉ですが、遠慮させていただきます。全部私のせいなんですから。……そもそも、リオンさんはグランディード王国を舐めすぎです。個人でどうにかできるレベルじゃありませんよ」


「まあ、俺だってすぐにどうこうできるとは思っていないが……その気がないならこの話は終わりにするか」


「でも、お気遣いいただきありがとうございます。やさしくしてくれたおかげで少しは楽になりました。……ところで」


 ここでアリシアは、ずっと疑問に思っていたことをようやく口にする。


「死体たちを集めて、いったいどうするおつもりなんですか?」


「……え?」


 アリシアの言う通り、リオンは先ほどからずっと盗賊団の死体をなぜか一ヵ所に集めていた。

 これにどういう意図があるのか、アリシアは分からずにいた。


「ああ、これか? 死体をこのままにしておくと、周囲のマナの影響を受けてゾンビになるって師匠に聞いたから……」


(あ、もしかして、死体が残らないように火葬でもするのかしら?)


 などと、予想を立てていると、リオンの口からまったく違い内容が飛びこんできた。


「こいつらを素体にして新しいアンデッドでも創ろうとしているんだよ」


「ア、アンデッド……?」


「そう。さっき俺が召喚したスケルトンたちもこの方法で生み出したんだよ」


 一体リオンがなにを言っているのか分からないままアリシアを置いて準備が進んでいく。

 そして、すべての死体を一ヶ所に集め終えると、リオンは手をかざしながら詠唱を始めた。


「《開け冥界の門よ、この者たちを贄として我がしもべを創造せよ》」


 すると、死体のある地面に魔法陣が浮かび上がると同時にその死体が闇色の炎に包まれる。

 その炎は一瞬で死体たちを飲み込み、代わりにその場所には一体のアンデッドが現れた。


 今度のは、先ほどのスケルトンとは違い、元の人間に近い姿をしていた。

 肌は浅黒く、多少腐ってはいるが、リオンが見上げるほど大きな体を持っている。


「やっぱり素体の影響しているのか、盗賊みたいな恰好をしているな。……バンデット・ゾンビっていったところか?」


 そしてリオンは、影を動かし、創造したゾンビを飲み込ませ、影の中へと収納した。


「リ、リオン……さん……」


「ん? どうした?」


「あなたはいったい……何者……なんですか?」


 一連の光景を見ていれば誰もが疑問に思うこと。

 リオンは、先ほどの身の上話のお返しと言わんばかりに自分のことについて話し始めた。

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