06●新人作家が直面する“出版地獄”、半減した市場に救いはあるのか?

06●新人作家が直面する“出版地獄”、半減した市場に救いはあるのか?





 カクヨムサイト全体のPVが増えて増えて大繁盛したら、どんなことが起こるのでしょうか?


 ここからは仮定のお話です。

 あくまで私個人の推測と想像ですので、ホラ話、というか夏の夜のホラー話の一種としてお読み下さい。

 決して、本気にはしないで下さいね。


      *


 カクヨムサイトが大繁盛すると……

 ビジネスとして安定します。成功例として世間に認知されます。

 すると当然……

 他社が参入して来ます。

 他の出版社およびその関連会社が、同種の無料小説投稿サイトを立ち上げます。

 すでにその傾向が見えていますね。

 参入してきた競合他社サイトは、サイトの参加者を増やし、PVを増やして広告収入を上げるために、独自の公募企画を打ち出します。出版のコンテスト。

 参加者にとっては、それだけ、プロ作家デビューの幸運をつかむチャンスが増えることになります。

 私たち参加者にとっては、とても都合のいいことです。


      *


 そうやって幸運と実力で、めでたく紙の本で出版デビューを果たされた方には、心からおめでとうと、そして頑張って下さいと申し上げたいです。

 幸運をお祈りします。

 というのは、水を差すようですみませんが、じつは、この先も、全く楽な道ではないからです。

 プロデビューしても、ほとんどの人にとって、そこは薔薇色の未来とはほど遠く……


 むしろ薔薇どころかいばらの道。

 まずは、さらなる非情なランキングが待っています。

 プロ作家となれば、書いた本が売れなくては存在意義がありません。

 商業出版ですから、それは宿命です。

 採算ラインに乗らなかったら、打ち切りです。その先はありません。

 また、振り出しに戻ってしまうのです。

 苦労して書き上げた二冊目が売れたとしても、三冊目が売れなかったら、やはり振り出しです。

 それに人間、そうそう簡単に長編作品を書き上げることはできません。

 特にデビューしたての人は、たいてい自分の生業なりわいを別に持っているので、兼業作家となります。

 よほど楽して儲かる生業でなければ、片手間に小説、それも商業作品として通用するハイクオリティの作品を量産するなど、極めて困難。フツー、不可能。

 なにより時間を要します。

 といって、次作まで一年も待ってもらえませんしね……。


 そりゃそうでしょう。芥川賞は2020年上半期で163回を数え、歴代受賞者は二百人以上。このうち何人の方が、文壇で人生を謳歌されているのか……

 今現在もバリバリ活躍されている方、そんなに名前が出てこないでしょう。

 だって傑作って、一生の間にそうそう何作も書けるはずがありませんって。

 だから、傑作なんですから。


 過去二十年ほどを振り返って、私が直接間接に知るプロ作家さんたちの中で、現在も執筆業で飯を食んでおられる人は、数十人に一人、という印象です。

 デビュー後、長くて十年ほどで、いわゆるオワコンとなって静かに去られたり……

  (まあ、私もそんな一人ですが)

 恐いのは、売れても売れなくても、身体を壊されるケースです。

 若くして他界された方も二、三人、心当たりがあります。

 一歩間違うと、命がけです。

 売れても売れなくても、振り出しどころか“あの世”へ旅立ってしまう結果は、あまりにも悲しいです。

 ラノベのように、転生して異世界でチート生活を送っておられれば、まだしもの救いなのですが……

 しかしその一方、極めて少数ながら、お元気で書き続けている方もおられます。

 途中で引退される方との違いは、はっきりしています。

 どこが違うのかは、いずれのちほど。


      *


 あ、これじゃまるで、“しくじり先生”の講義ですね。失礼しました。

 ともあれ今は、デビューしてもそう簡単には、売れないという話。

 いやむしろ、たいてい売れない、という話。

 売れないのは、ある意味当然です。

 作品の良し悪しとは別に、この事情があるからです。

 出版不況。

 呪文のように、そう唱えられるようになって久しいですね。

 これまで十数年は、慢性的な出版不況……という印象ですが、いやいやもっと根が深いのです。


 大きな変化としては……

 そういえば、本屋さんが減りました。

 私が住む市街地で、十年前には大型書店が三軒ありましたが、今は一軒です。

 なんか、いつのまにか本屋さんへ足を運ぶことがなくなって、十年前なら週一回程度訪れていたのが、今は年に二、三回がいいところ。

 本はCDやDVDと一緒に、ネット通販で買っています。

 しかも、ブ○○クオフさんや駿○屋さんとか、中古品の通販を頻繁に利用するようになりました。急ぎで欲しいブツでなければ、半年も待てば半額になるからです。


 最近の本屋さん、どうなっているのだろう。

 そこで、“書店数、推移”でネット検索してみました。

 げっ!


 全国の書店数:1999年に約2万2千軒だったものが、2019年には約1万1500軒。


 二十年でほぼ半減していたのです。

 しかも、残っている本屋さんの中で、店舗を持たずに官公庁や学校などに納品だけしているお店もあるので、本棚に並べて売る店の実数は、すでに1万軒を割っているとか。


 コリゃ売れんわ……

 ボーッと生きてンじゃねェよ! と五歳の女の子に叱られるほどに、いつのまにか世の中、天地がひっくり返っていたのですね。

 二十年前の記憶をたぐります。

 世紀末の頃、ラノベの文庫は、無名の新人作家でも、出せばまあ一万部ほど売れました。

 ちょっと評判が良かったら、やすやす二万部を超えました。

 だいたい、全国の書店一軒で一冊売れたようなものですね。

 それが20年後の今は、ラノベの文庫は一万部売れればよい方だと聞きます。

 つまりこれも、書店一軒で一冊くらいの計算です。

 無理もないよ。本を並べてもらえる場所が半分に減っちゃったんですから。

 しかも店頭に並ぶ期間が、ラノベだとせいぜい二週間程度。

 次から次へとラノベの新刊がやってくるので、トコロテン式に書棚から押し出されて、返品を食らってしまいます。

 コリゃ売れんわな……


 さらに統計を見てみましょう。(出版科学研究所調べ)

 書籍と雑誌の販売規模の変化です。

 グラフを見ますと、綺麗な三角山。

 書籍の販売部数は、昭和の時代に伸び続けたピークが1988年、以来、じわじわと減り続けて……

 2019年現在では、1970年代前半の部数にまで落ち込んでいます。


 雑誌の販売部数の変化はさらに顕著で、ピークが1995年、以来、着々と減り続けて、2019年現在では、これまた1965年当時の部数にまで落ち込んでいます。


 書籍も雑誌も、おおざっぱに言えば半世紀前の規模に戻ってしまったのです。


 もう少し詳しく、過去二十年の変化をクローズアップしましょう。


 20年前の1999年は……

 雑誌の売上高は、約1兆5千億円。書籍の売上高は、約9千9百億円。


 20年後の2019年では……

 雑誌の売上高は、約5千6百億円。書籍の売上高は、約6千7百億円。


 直近の20年で雑誌は概ね三分の一に、書籍は三分の二にダウンしているのです!

 これ、マンガの雑誌や単行本まで含む金額ですよ。

 もとより吹けば飛ぶような存在のラノベは、どうなってしまったのやら……


      *


 つまり……

 今から四半世紀前の1990年代半ばは、書籍も雑誌も頂点に達した、いわば出版天国でした。

 あの時代はよかったのです。

 私の記憶をたぐっても、あの頃のラノベは勢いがあって、出版社もホイホイ出して、たいてい採算に乗っていたと思います。

 ちょうど世はバブル景気、何を出してもよく売れる時代だったのですね。

 それにネット通販が黎明期で、みんな本は本屋さんで買っていたのです。


 それが今は、出版不況が慢性化して、不況どころか出版地獄で定着した感じ。

 もう、出版蟻地獄というか。

 なにしろ、良くなる見込みがてんで見えないのですから。

 このままではジリ貧あるのみ。

 そりゃあ、作家デビューしても、長続きしません。

 20年前は増刷して二万部が期待できました。

 今は半分の一万以下……となると、のっけから採算ラインを割り込む恐れが出てきます。

 そりゃ、赤字となったら作家はクビでしょう。

 しかし作家の責任というよりも、どだい、マーケットが致命的に縮小しているのです。

 紙の本は、部数も書店も毎年毎年減るばかり。

 手を打たないと、この先二十年で、本屋は消滅……とまではいかないまでも、大都市でしか見られない特異な施設になってしまうでしょう。

 書店大消滅時代。書籍マーケットの大消滅時代。

 これではいずれ、作家だけでなく出版社も続々とオワコンになってしまいますよ。


 では、どうしたらいいのでしょう?

 次章に続きます。








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