第40話 友人
「どうぞ」
扉がノックされたので返事をかえす。
ノブが周り、リーンの奴が室内へと入って来る。
「ん?どうかしたか?」
「あの……その……俺」
自分の腰掛けているベッドの横をポンポンと叩く。
リーンは黙って俺の横に座った。
「師匠……俺……本当に王族なのかな?」
「さあな」
アイシャさんは屋敷を出て王都に向かっていた。
本当にリーンが王族なのか、超々低確率で生まれた例外なのか。
それを調べるために。
「俺がもし王族だったら……師匠は……その……俺の事……」
「言っておくけど。お前が王族だからって、俺は特別扱いする気はないぞ?この国どころか、俺はこの世界の人間ですらないからな。正直、お前の生まれなんざ糞程どうでもいい」
ぶっちゃけた話。
女王であるアイリーンをぶちのめす気満々の俺が、王族だからと言ってリーンにヘこへこする事などありえない。
仮にあの糞女がリーンの母親や――年齢的に少し無理があるが――姉だったとしても、俺は自分の目的を変える気もなかった。
「へへ……師匠……」
リーンの不安は別に消えてなくなった訳でないが、俺がはっきり自分の意思を示した事に安心したのか、彼女は嬉しそうに俺の腕に抱き着いて来る。
その時初めて気づいたのだが、真っ平に近いリーンの胸は、以前よりも少し膨らみがましていた。
ふふ。
だがいくら俺がボッチの童貞だからと言って、この程度の刺激に惑わされると思ったら大違いだぜ。
「ままま、まあ。あれだ。お前もこ、細かい事は気にするにゃ!」
駄目でした。
「なに挙動不審な事やってるのよ」
テアがノックもせず、空きっぱなしだった扉から部屋に入って来る。
こっ恥ずかしい醜態を見られてしまった。
俺のクールなイメージが崩れてしまう。
因みに、彼女の突然の登場に驚いてリーンはベッドから立ち上がっている。
だからと言って、別に残念だとはこれっぽっちも思ってはいない。
本当だぞ?
「テアか。なんか用か?」
俺は平常を装い、ずかずかと俺の前にまで歩いて来た彼女に尋ねた。
よし、ばっちりだ。
「母の事で礼を言いに来たんだけど、邪魔だったんならまた後にするわ」
テアが汚い物を見る様な眼差しを俺に向ける。
いかんな。
これは完全に変質者を見る目だ。
何とか挽回せんと、異世界からやって来たロリコンなんて不名誉な噂が広まりかねん。
「リーンが不安がってたから、相談に乗ってただけだ。変な想像は止めろ」
「ふーん」
俺の言葉をあんまり信じていないのか、疑りの眼差しをテアは俺に向ける。
おのれ糞ガキめ。
信じる者は救われるという言葉を知らんのか。
「ぷっ……冗談よ。本当にいかがわしい事する気なら、部屋の扉を開けっぱなしになんてしないでしょうからね」
リーンは育った環境的に教育が行き届いていないのか、少々行儀が悪い所がある。
部屋の扉を閉めない行動は褒められた事ではないが、今回はそれに救われた様だ。
感謝しないとな。
ん?いや待てよ。
そもそも扉が閉まってたら見られてなかったんだよな?
そう考えると、やっぱ別に感謝はする必要は無いか。
まあ取り敢えず、王族云々抜きにしてもリーンには最低限のマナーは叩き込んでおかんといかんな。
「リーン。此処にいる人間は貴方が王族だろうと、態度を変える様な人間じゃないわ。安心しなさい」
テアはリーンに向かってにっこりと微笑む。
そしてその右手を伸ばす。
「え?あの……」
「この天才魔導士である私が、貴方の友達になってあげる」
「あ……ありがとう」
照れ臭そうに、リーンは差し伸べられた手を握る。
テアを見ると此方にウィンクして来た。
成程……これが母親を助けて貰ったお礼って訳か。
どうやら彼女は、リーンの相談相手になってくれる様だ。
不安を抱えているリーンにとって、俺よりも年の近い彼女の方が話しやすい事も多いだろう。
しかし……俺を脅して引き入れた時も思ったけど、こいつ年の割にかなり大人びてるよな。
どんな人生を送って来たんだろうか?
まあ多少その事は気になるが、今は素直に感謝するとしよう。
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