グリモワール・オンライン

灰猫

グリモワール・オンライン

序章 クローズβ

第1話 はじめてのあいさつ

「グリモワール・オンラインの世界へようこそ!」


 何もない真っ白な空間に浮かぶ、小さな妖精は高らかに声を告げた。


 俺がこのゲーム『グリモワール・オンライン』をプレイする事になったのは、姉の唐突な質問が原因はじまりだった。


「ねぇ仁、コレやらない?」


 俺の前に掲げられたのは、本日クローズβテストが始まると宣伝している『グリモワール・オンライン』の広告チラシ。


「姉さん…俺、テスターの応募してないんだけど…?」


 なかなかに面白そうなゲームが始まるというのに、それの応募期限を知らずにのんべんだらりと日々を過ごしていた自分への当て付けかと怒りを燻ぶらせながら問いかけた。


「大丈夫よ。私が応募しておいたから、もちろん当選したわ!」


 仁の異議申し立ては、悪魔的な幸運によって遥か遠くの彼方へと棄却された。


「えぇ…それで何時から?」


「えーっと13時丁度ね。世界初のVRゲーム…楽しみね?」


 時計を見ながらワクワクと言った表情を見せる姉の顔を見て、文句を言うのも野暮と口を開くのを辞めた。


 あと2時間。


「きっと驚くわよ。さ、お昼は早めにしましょう」


 もう用は終わったとばかりに、台所へ小走りで走り出す。


「グリモワール…魔導書ね。取り合えずインストしないと…」


 世界初のVRゲーム『グリモワール・オンライン』とこれからの長い付き合いを予感させる最初の1ページである。

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