成長とは自らを顧みることだ
佐藤さんにぼくが学んだことを話した。何に怒っているのかについても聞いてみようとしたけど,それには及ばなかった。「どうして怒っているの?」と聞こうとしている途中で頬をぶたれたからだ。女の子に手を挙げることと同様に,女の子にやられることを恥ずかしいとする人もいるが,漫画みたいなシチュエーションを経験出来てぼくは悪い気はしなかった。ただ,中川くんはぼくの方を見てにやにやと笑っていたのだけれど,ぼくと彼とは本質的に違うのだから気にしないことにした。
ぼくが頬を張らせた要因を直接見ていた三浦くんは不思議そうにぼくに尋ねた。
「コウシくん。どうしてあんなことを言ったんだい?」
三浦くんがあんまりにも目をきれいに丸くして聞くので不思議に思ってぼくは聞き返した。
「どうしてって。ぼくは特に変なことを言ったつもりはないけれど,何かおかしかったかい?」
「おかしいとまで言うつもりはないけれど,女の子に面と向かってそんなことを言うのは少々デリカシーにかけると思う」
「ジンカクシャにそこまで言わしめたのだから,ぼくは相当デリカシーに欠ける発言をしたのだろう。三浦くんはぼくのことを嫌いになったかい?」
「いや,ぼくはコウシくんにも天然なところがあって愛くるしく感じたぐらいだよ」
「それは良かった」
それからぼくは三浦くんにぼくのどんな発言が,佐藤さんを邪知暴虐の王たらしめるものとなったのかを分析してもらうことにした。結論から言うと,一言一句余すことなくすべての発言が佐藤さんの堪忍袋の緒を切らすことになっていたと知った時にはさすがのポーカーフェイスのぼくも度肝を抜かさざるを得なかった。
ぼくは佐藤さんに,三浦くんの家でなつみさんのおっぱいに取りつかれていること,それを再び見に行って自分に打ち勝とうとしていたことを説明した。すると,驚くべきことに佐藤さんは,知っている,と言った。佐藤さんは他のクラスの女の子と違って賢い人だとは思っていたけれど,まさか人の心を読む力があるとは思わなかった。続けてぼくは,そんな自分を変えるために”主体的な人間になる”という行動をとることを伝えた。”主体的”とは”自分の意志で”ということなのだと伝えるとまた,知っている,と言った。佐藤さんは賢いのだ。そして,これからは何かに反応して動くのではなく,”主体的”におっぱいを見るということを伝えると頬を赤くする羽目になったわけだ。
三浦くんは「正直すぎるのは時には良くないことがある」と言った。確かにそんなこともあるのかもしれない。さすがはジンカクシャだ。嘘をつくのは良くないとだけ考えていたぼくより一つ先へ行っている。
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