佐藤さんは起こった様子で「怒ってない」という


 学校につくと佐藤さんは露骨にぼくのことを避けるようになった。普段のぼくなら中川くんや宮坂くんに何をされたって気にはしないのだが,ぼくは佐藤さんのことを友達としてずいぶん気に入っていたみたいだ。胸の奥がぽっかり空いたみたいで,喉がギュッと締めつけられたように少し苦しい。


「佐藤さん,なんだかいつもと違うよね。昨日ぼくんちで何か不愉快なことをしたかな」


三浦くんがぼくのところへ来て言った。ぼくとしては心当たりがないわけではないが,どうして怒っているのかと言われるとそこがなんとも掴めない。女の子には急に怒り出すことがあるのだと誰かが言っていたから,今はそういう時期なのかもしれない。佐藤さんと仲直りしたいという気持ちはある。だから,放課後に佐藤さんのところへ行って何に起こっているのか聞いてみようと思った。


 掃除をして帰りの会が終わり,これから下校をしようという頃に佐藤さんの所へ向かった。


「どうして怒っているの?」


とぼくは言った。


「私は怒っていない! あと,コウシくんが変わらないのなら私はあなたたちと一緒にいられないから!!」


と佐藤さんは言った。怒った口調で怒ってないと言い,よく分からない状況は深まるばかりだ。ただ,いま少し話をしただけで分かったことがある。ぼくが変わらないと佐藤さんとは仲良くなれないということだ。ぼくは家に帰ったら自分を変えるための本でも読んでみようと決めて本を探すことにした。



 家に帰ってからまず頼ったのはお父さんだ。簡単に事情を話すとすぐに本を出してくれた。ものすごく分厚い本だ。今まで読んだ分厚い本と言えばハリーポッターだ。あのファンタジー小説のような厚さでどう生きればよいのかがまとめられてあるのだから,佐藤さんと仲直りするための方法だって書かれてあるに違いない。本は武器だ。どこかの貧しくて大変立派な人が,一本のペンや一冊の本が武器となるというようなことを言っていた。まさにぼくは今から知識という武器を手にしようとしているのだ。

 ぼくは本の読み方までも賢い。こういう本を読むときにはま目次を読む。なるほど,どれも目次を読むだけでなんとなく目をひかれるものが多いが,この本は一から読むことにしよう。自分を変えるというのは簡単なことではない。そして,佐藤さんと仲直りをするのに要領よく本を読もうというのも何だか違う気がする。少々回り道見なったとしても,必ず自分の為になるはずだ。まずは一つ,この本に書いてあることを明日から実践してみることにしよう。

 即効性を求めてはいけないが,まず結果が欲しいというのも事実だ。この世はとかく生きにくいと明治時代の偉い人が言っていたけど,まさにその通りだと思う。



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