三浦くんちには魔女がいる



 三浦くんの家に着くと,エプロン姿のきれいなお姉さんが迎え入れてくれた。ずいぶんと若いお母さんだと思っていたら,大学生のお姉さんらしい。三浦くんのお姉さんはとても優しい。部屋に案内してくれたあと自分で焼いたというクッキーを出してくれた。それは程よい硬さで,すこししっとりしていてとても美味しかった。ぼくは「ありがとうございます。三浦さん」とお礼を言ったがひどく笑われた。なぜそんなに笑うのかよく分からなかったが,三浦くんと佐藤さんの方を見ると二人も何だかおかしそうだった。いろいろと話すうちにぼくと佐藤さんは三浦さんのことを,なつみさんと呼ぶことになった。


「今日はお母さんが少し遅くなりそうだから,おもてなしが出来なくてごめんね。今日は私がご飯を作るのだけれど,よかったら食べていかない?」


 ぼくたちはなつみさんの作った晩御飯を食べて帰ることにした。おばあちゃんが心配するといけないというと,なつみさんは電話を貸してくれた。「そうかい。それはお世話になるねえ」とおばあちゃんはすんなりと受け入れてくれたが,佐藤さんは家に電話を掛けたものの一筋縄ではいかない様子だった。何度かのやり取りのうちに早めに帰るということで了承をもらったようだ。ぼくはあんなにぷんすかしている佐藤さんを初めてみた。佐藤さんはクラスの男子にちょっかいを出されてもちっとも相手にしないけれど,おうちの人に晩御飯を食べて帰ることを許されないとぷんすか怒る人なのだ。

 なつみさんはとても手際よく料理を作った。あれよあれよという間にテーブルがいっぱいになり,いただきますをする段となった。エプロンを外したなつみさんも食卓へ座った。ぼくは思わず目が行ってしまった。なつみさんの心臓のところには不思議なふくらみがある。もしかしたら人よりも心臓が大きいのかもしれない。


 この直後,魔法のふくらみには本当に魔法の力があることをぼくは思い知らされた。あれをおっぱいと呼ぶことはもちろんぼくも知っている。以前,夜遅いテレビで大人の男の人が冗談みたいにあのふくらみに翻弄されているのを見たことがあるがあれは嘘だと思っていた。子供だましみたいなもので,その場の雰囲気でみんな遊んでいるのだ。なんて馬鹿なんだろうと思ったものだった。しかしぼくはどうだろう。まさに釘のように刺され,引っこ抜いては磁石のように引き寄せられる。そうだ,きっとぼくの目玉はS極で,なつみさんのおっぱいはN極なのだ。あるいはぼくの目玉はN極で,なつみさんのおっぱいがS極。ふたつの性質は引っ付き合うのだ。

 そんなことを考えながらも,食事の最中に不謹慎だという道徳はぼくにもある。今年に入って道徳の授業を何回も受けた。それなりには道徳という教養を身に付けたのだ。ぼくはボケーっとしたり肩で風を切るために学校に行っているのではないのだ。ちゃんと学んでいるのだ。



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